『みやこの自然(本編)、別冊』 島の自然、再発見の書


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『みやこの自然(本編)、別冊』 宮古島市教育委員会 本編5000円、別冊2000円

 われわれ生物学者が宮古島と聞いた時に真っ先に思い浮かぶのはピンザアブの驚くべき化石群である。現在は西表島にしかいないヤマネコの化石も有名である。宮古島にはケナガネズミやゾウまでいたのである。しかし、研究が進むに連れて、実は現在の宮古島にも多くの不思議な生き物が住んでいることがわかってきた。

 それらをまとめて2019年3月に宮古島市史第三巻第I部(本編)として「みやこの自然」が発行された。地質・地形から海域、陸域の動植物まで多くの専門家の参加のもと、現地の詳細な調査に基づいて広く宮古島の自然環境が紹介され、さらにみやこの自然を次世代に引き継ぐための提言も示されている。宮古島の過去と現在の自然が淡々と説明されている一方、調査の時の裏話や執筆者の主張、ちょっとしたミニ知識などがコラムとして散りばめられているのが楽しい。

 続いてこの3月に発行された「みやこの自然別冊」はその資料集とでも言える位置付けである。本冊は2部からなる。前半は「ビジュアルみやこの自然」として、本編で解説されたさまざまな自然に関わる記述をわかりやすい地図やグラフ、カラー写真で示されている。特に植生については50年以上前の詳細な地図が示されており、当時の宮古島を見ることができる。気候や生物季節を宮古の方言も加えて示した丸い季節カレンダーは、今はどの季節かなとチェックできる楽しみもある。

 後半はガラリと変わって、「宮古諸島生物目録」である。宮古諸島全域に生息する海・陸の生物8867種が学名や分布とともにリストにされている。最新の調査結果も加えたリアルタイムの生物目録であり、学術的にも価値が高い。生物目録というと生物の名前がずらずらと記されていて味気なく感じられるかもしれないが、細かくみると最近新たに発見された種や分布地があったり、よく見かける種が実は外来種であったり、宮古諸島にしかいない種がたくさんいることなどさまざまなことがわかる。

 宮古島再発見の書である。

 (伊澤雅子・琉球大学名誉教授)

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 宮古島市史編さん委員会の下に、編さん委員で構成する「自然編小委員会」、「自然編編集作業部会」を設置。「自然編調査員」を中心に調査した。自然編は第I部、第II部で構成。第I部には本編と別冊があり、別冊は「ビジュアル みやこの自然」「宮古諸島生物目録」で構成する。