『沖縄県史 各論編9 民俗』 意外性示して読者挑発


社会
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『沖縄県史 各論編9 民俗』 沖縄県教育委員会・頒布価格5千円

 いつもの年だとエイサーの太鼓の響きが聞こえてくる頃だが、どこも中止だという。そのような時期に700ページの『沖縄県史 各論編9 民俗』を読んだ。その最後がエイサーだった。

 沖縄は自治体史編纂(へんさん)が盛んだ。県史はもちろん、市町村史が数多く刊行されている。それらには必ずのように民俗編が含まれている。民俗とは地域で古くから伝えられ、行われてきた生活文化のことだと説明され、衣食住、生業(なりわい)、冠婚葬祭、年中行事、祭り、芸能などが記述されている。それを読むと、民俗は確かに地域の生活であるが、現代的なものでなく、すたれつつある古いものという印象を与えてくれる。そしてその意味づけでは、民俗は沖縄文化の本来の姿を教えてくれるとする。

 今回刊行された『沖縄県史 各論編9 民俗』は、今までの民俗編とは大きく異なり、刺激的で新鮮である。組み立てとしては、従来と同じように、民俗全般を取り上げて記述している。しかし、記述の方法と内容が大きく異なるのである。民俗を記述する前提には多くの調査研究の蓄積がある。ところが、そのことをほとんど表面に出さないのが今までの民俗編であった。それに対して、調査研究をした研究者の実績を紹介し、評価し、民俗を位置付け、その意味を説明している。読者の知的好奇心を大いに刺激するとともに、今後の研究の手がかりを与えてくれる。

 そして、民俗は昔から変化することなく伝えられてきたという前提を破棄し、歴史のなかで民俗を把握する努力をしている。琉球国時代の制度や社会との関わりで民俗を理解しようとし、また明治国家に組み込まれて実施された制度や施策との関係が追究されている。敗戦後のアメリカ統治時代や日本復帰後の変化にも注意している。最後の第六部を「近現代と民俗」として屋取、郷友会、移民、観光、さらに米軍基地、沖縄そばまで民俗の問題として取り上げていることによく示されている。

 本書は伝統的に見える民俗が意外に新しいことを明らかにし、読者を挑発している。

(福田アジオ・国立歴史民俗博物館名誉教授)

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 「新沖縄県史各論編編集専門部会(民俗)」が2015年から部会を重ね、編さんの準備を進めた。沖縄研究者65人が執筆。県教育委員会のホームページ「沖縄県史料の販売」から購読申し込み可能。県教育庁文化財課史料編集班(電話)098(888)3939。