『沖縄エッセイスト・クラブ 作品集37』 三十一通りの人生味わう


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『沖縄エッセイスト・クラブ 作品集37』 沖縄エッセイスト・クラブ 新星出版・1500円

 昭和58(1983)年に創刊され、平成を経て令和最初の作品集である。その令和元年に首里城が焼失するという衝撃的な出来事が発生。首里に生まれ育ち、現在も首里城近くに住む金城弘子と諸見里杉子が「首里城に想うこと」「赤への回想」にその想いをつづっている。親からの伝聞や復元後の首里城を身近に見つめてきた者にしか書けない随想である。そして、それぞれ共通して再建への決意で結んでいるところに、首里人(スインチュ)の心が感じられる。

 稲嶺惠一「上杉茂憲―県費留学生の父―」は山形のテレビ局から取材の依頼があったのをきっかけに、第二代沖縄県令(知事)の上杉について丹念に調べ功績をたたえたものだが、先輩知事に対する畏敬の念が伝わってくる。ただ、途中二カ所に突然、「茂徳」という名前が登場して困惑したが、肝心の名前に校正もれがあったのが惜しまれる。

 大宜見義夫「おおぎみクリニックの二十三年―ABCものがたり―」は単に病院経営の記録かと思ったが、ロゴマークのABC裏話(ネタバレのため読んでのお楽しみ)、自称「爆走小児科医」の米大陸ハーレー横断、自らの突発性難聴、閉院の決断など波乱感があって読ませる。

 大宜見や、「俳句の声が聴こえる」のローゼル川田、「セレンディピティ」の長田清、「探偵もどき」の南ふうなど、すでに著作のある書き手はさすがに手慣れた文章でタイトル、内容ともに読む者を引きつける。

 他に、石川キヨ子「『人情劇場』へのご招待」我那覇明「島へ帰りたかった」上原盛毅「失明の記」にも触発されたが、紙幅の都合で紹介だけにとどめたい。

 作品集の出版後、会員は毎月集まって合評会を開くという。元知事、元校長、現役医師らが「まな板の鯉」になるのである。会員の厳しい(?)洗礼を受け、切磋(せっさ)琢磨(たくま)し、また翌年に向けて作品に向き合うのだという。実に「三十一通りの人生をじっくり味わって」(まえがきより)たくさんの栄養を得た心地にさせてくれる作品集である。(敬称略)

 (大濱聡・沖縄国際大学南島文化研究所特別研究員)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「作品集37」は会員31人が寄稿している。同クラブは1983年以降、年に1回、合同でエッセイ集を発刊している。「37」は2019年10月31日に焼失した首里城をテーマにした作品も。

沖縄エッセイスト・クラブ編
四六判 304頁

¥1,364(税抜き)