『沖縄をめぐる言葉たち 名言・妄言で読み解く戦後日本史』 鮮鋭に描いた沖縄戦後史


社会
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『沖縄をめぐる言葉たち 名言・妄言で読み解く戦後日本史』河原仁志著 毎日新聞出版・2200円

 本書は、沖縄戦から現在に至る「沖縄をめぐる言葉」を取り上げ、それらを解説する形で沖縄戦後史を通観している。

 著者によると、沖縄をめぐる言葉、特に沖縄の人々が発する言葉は、時間軸が長くとても重い。近年、その重い質量に気づかせたのが前沖縄県知事の翁長雄志氏だった。本書構想の直接のきっかけは、2015年に行った翁長知事とのインタービューだったという。「翁長さんは歴史を背負ってますね」と著者、「いやウチナンチュはみなそうですよ。ヤマトンチュよりずっと苦い歴史を生きてますから」と翁長氏(「まえがき」より)。その翁長氏の言葉を含めて、本書では「沖縄をめぐる言葉」として62の文言(それぞれ1行から3行)が掲げられ、その文脈や時代背景、世上の評価や真意の解釈などがおのおの3~4ページの紙幅で解き明かされている。

 このような体裁で、沖縄戦末期の太田実海軍少将の「沖縄県民斯ク闘ヘリ…」の電文から、阿波根昌鴻、瀬長亀次郎、屋良朝苗、西銘順治などのウチナンチュ、昭和天皇、佐藤栄作、大江健三郎など沖縄に関わった日本人、マッカーサー、キャラウェイなど米国人の為政者等々の発言を挟んで、18年の「慰霊の日」式典で朗読された相良倫子さんの詩、現知事の玉城デニー氏や「県民投票」実現に活躍した元山仁士郎氏の発言に至るまで、数々の多彩な言葉を紹介・解説・批評している。

 本書の副題に「名言・妄言で読み解く戦後日本史」とあるが、主題はあくまで沖縄の戦後75年。その「苦い歴史」の中から著者が切り取った62の言葉とその意味の検証を通じて、沖縄戦後史をあたかも「点描画」の如く鮮鋭に描き出すことに主眼がある。だが同時に、その点描画が放つ光は、「本土の側から見ると逆光のようにこの国の実像を映し出している」。副題は、本書を通じて「この国の在り方」まで自省的に考えてほしいという著者の熱い思いを表現したものだ。

 多くの読者が本書の言葉たちを直接味読し、自省的に熟考することを評者も期待したい。

(波平恒男・琉球大学名誉教授)

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 かわはら・ひとし 1958年東京都生まれ。82年に早稲田大学卒業後、共同通信記者。経済部長、編集局長などを経て2019年からフリーライター。学生時代から沖縄渡航を重ねて戦後史関係の取材を続けている。