【深掘り】なぜ知事は賛成のはずが「遺憾」? 那覇軍港移設、浦添市長「決断」で直面する難題


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那覇軍港の移設予定地。奥中央にサンエー浦添西海岸パルコシティ=15日、浦添市西洲

 米軍那覇港湾施設(那覇軍港)の浦添市移設で、軍港の配置を巡って松本哲治浦添市長の動向が注目されている。これまで松本市長が主張してきた南側案に、国と米軍が難色を示したためだ。北側案を推してきた県と那覇市には本来、好都合なはずだ。だが玉城デニー知事は15日、国の動きに反発した。背景には手放しで喜べない事情がある。早期実現を願う那覇市との温度差も透ける。

 「絶好の機会だ。絶大なリーダーシップで進めてほしい」。県庁で開かれた県建設産業団体連合会から玉城知事への要請で、同会の玉城徹也国場組社長は力を込めた。18日の3者会談で結論を導き出すことを要望した。玉城知事は「両市の考えを聞いて意見交換したい」と述べるにとどめた。

温度差

 沖縄防衛局は今月4日、県や那覇、浦添の両市、那覇港管理組合に対し「国の考え方」として南側案は難しい旨を伝えた。

 国が北側案を支持したことで、松本浦添市長が南側案を下ろせば合意できる環境が整う。

 玉城知事は声明で「突然、国の考えを示されたのは大変遺憾だ」と述べた。フェイスブックでも「頭越しだ」と批判した。

 一方、那覇市幹部は「知事は与党の意見も聞かないといけない立場なのだろう」とおもんぱかりつつ「このまま進まないのは那覇市にとっては困る」と率直に語る。「松本市長も国と水面下の調整はしているだろう。心が決まっていないはずがない」と指摘する。「3者会談は決定の場ではないし、方向性の確認ではないかと思うが、松本市長は北側案でいくという『苦渋の決断』を伝えるのではないか」と期待した。

難題

 これまで県は、軍港移設については国も交えた協議会や那覇港管理組合で話し合うべきだという姿勢を貫き、玉城知事が前面に出ることは避けてきた。軍港移設について共産や社民、社大など「オール沖縄」陣営内で、移設自体に反対する意見も根強く、慎重にならざるを得ないためだ。

 与党の一人によると、軍港問題について玉城知事と与党で腰を据えて話し合ったことはないという。だが政府や米軍が南側案に難色を示したことで、松本市長が譲歩し議論が加速する可能性が高まっている。与党幹部の一人は「これまでは松本市長が南側案にこだわっているから(滞っている)と言えた」と語る。「オール沖縄」陣営が、ふたをしてきた難題に玉城県政は向き合わざるを得なくなる。

 さらに西海岸関連道路が開通し大型商業施設が開いたことで、浦添西海岸が多くの人の目に触れるようになった。このため軍港移設や埋め立てそのものに理解が得られにくくなっているとの見方もある。県関係者の一人は「目の前に広がる海に土砂を投入していくのに耐えられるのか」と首をかしげる。与党幹部も「状況は変化しており、移設反対の世論はより高まっている」と強調した。松本市長が南側案を取り下げるタイミングが注目されるが、その次は、玉城県政と与党がどう移設問題に向き合うのかが焦点となる。
 (明真南斗、伊佐尚記、吉田健一)