観光業、雇用維持に正念場 相次ぐ離職者に懸念 事業者「コロナ後、質保てない」〈経済アングル2020〉


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 免税店を展開する沖縄ディーエフエス(DFS)で、新たに制度化された希望退職制度に応じる形で社員約180人が退職した。沖縄振興特別措置法の「沖縄型特定免税店制度」の適用を受け、リゾートショッピングの中核を担っているDFSから100人を超す退職者が出たことに、衝撃が広がっている。新型コロナウイルスの感染拡大により観光事業者の売り上げ低迷が深刻化する中で、経済界には雇用の先行きに懸念が広がる。

 同社マネージング・ディレクターのリチャード・グスタフソン氏は取材に対して「短期間でコストを減らそうという意図ではない。選択肢を提示し、本人の希望に沿って機会を提供した」と述べ、計画的な人員整理を否定する。退職一時金の制度を設け、従業員の利益を確保した上での完全な希望制による退職であることを説明した。

■コロナで急激悪化

 沖縄DFSは那覇空港免税店と那覇市おもろまちのTギャラリア沖縄byDFSを構え、約150ブランドが常設で商品を販売する。Tギャラリアではレンタカーの拠点を併設していることもあり、2019年までは多くの買い物客でにぎわっていた。

 公開されている決算公告では、17年12月期に純利益2億3666万円、18年12月期に同2億2919万円を計上していた。

 地元採用を優先し、雇用の受け皿になってきた側面もある。コロナ禍以前は同社の直接雇用で約400人のうち、7割が現地採用だったという。しかし新型コロナウイルス感染症の拡大で状況は急変した。同社は売上高を公表していないが、海外客がゼロになった影響などで業績は前年割れが続いているという。

 グスタフソン氏は「沖縄は国内免税ができるマーケットなので非常に助かっている。前年割れはしているが、需要は予想以上に強い」と話す。だが、Tギャラリアでは買い物客の姿は少なく、例年の活気からは程遠い状況が続く。

■雇用先行き懸念

 ある観光事業者は、沖縄DFS社員の退職について「数の多さに驚いたが、観光客を相手にしていた業種はどこも厳しいのは事実だ」との見方を示した。売り上げが激減し、経費抑制を余儀なくされる観光事業者の苦境に言及した上で、「このままではコロナが終わった後に質を保てなくなる」と、観光業から離職者が相次ぐことによる長期的な影響も危惧した。

 県内では基幹産業の観光に関連する業種などで雇用の喪失が続いている。厚生労働省の集計では、新型コロナウイルスの影響で解雇や雇い止めされた県内の労働者は見込みも含めて1052人で、全国で12番目の多さだ。労働局やハローワークに相談のあった事業所を集計しているため、実数はさらに多くなる可能性もある。

(沖田有吾)