イスラエルとUAE国交樹立  米選挙の手段となる危険<佐藤優のウチナー評論>


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 13日、米国のトランプ大統領は、ワシントンのホワイトハウスで、国交がなかったイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)が関係正常化(国交樹立)に合意したと発表した。イスラエルは、アラブ諸国との間では、1979年にエジプト、94年にヨルダンと平和条約を締結し、国交を樹立した。その後、アラブ諸国との外交関係拡大をイスラエルは鋭意追求していたが、これまで果たせなかった。

 今回、イスラエルがUAEと外交関係を樹立することができたのは米国のトランプ大統領による仲介が功を奏したからだ。特にイスラエルにヨルダン川西岸地区の一部併合を停止させたことの意味は大きい。

 〈UAEは併合計画を阻止してパレスチナ人の理念を守ったと主張できる。ただ、併合問題が交渉の切り札になったという事実は、イスラエル・パレスチナ間の紛争をめぐる力関係がイスラエル優位に変化したことを示している。以前ならアラブ諸国はイスラエル承認の引き換えにさらなる譲歩を要求していただろう。しかし、イランの脅威および長年にわたるパレスチナ側の強硬姿勢により、この問題はアラブ諸国にとってそれほど重要ではなくなっていた〉(14日米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」社説)

 中東では従来の常識が通用しなくなっている。トランプ大統領は、2018年5月、在イスラエル米国大使館を商業都市のテルアビブからイスラエルが首都と主張するエルサレムに移転した。1967年の第3次中東戦争(イスラエル側の呼称では六日戦争)でイスラエルはヨルダンに属していた東エルサレムを占領し、自国領に併合し首都と宣言した経緯がある。

 日本を含むほとんどの国は、この併合を認めずにエルサレムを首都と認めなかった。大多数の国は大使館をテルアビブに設置している。米国がエルサレムへの大使館移設を強行すれば、第5次中東戦争が起きるとの見方が強かった。当時、筆者もそのような分析をしていたが、それは間違いだった。イスラエルは、軍事的、経済的に中東地域の大国で、もはやイスラエルに戦争を仕掛ける力がアラブ諸国には残っていない。

 今回、UAEがイスラエルとの国交樹立を決断したのには二つの原因がある。

 第一は、ペルシア湾をはさんで対峙(たいじ)するイランが、自己主張と軍事的挑発活動を強めているからだ。イランに対抗するためにイスラエルカードをUAEは切った。

 第二は、イスラエルとの連携を強化することによってUAEの経済発展を加速したいからだ。特にイスラエルのハイテク技術にUAEは関心を持っている。今回の仲介外交によってトランプ大統領の権力基盤はかなり強化された。懸念されるのは、トランプ大統領が、11月の大統領選挙を有利にするために、10月にイランに対して軍事的挑発を仕掛けることだ。

 ホルムズ海峡で米軍とイランのイスラム革命防衛隊が武力衝突を起こすようなことになれば、国際関係は緊張する。米国では「川を渡るときに馬を変えるな」と言うが、イランと米国が武力衝突を起こすと現職のトランプ氏が有利になる。戦争が米国内政の手段になる危険がある。

  (作家・元外務省主任分析官)