『「沖縄問題」の本質』 専門分野越えた創造的研究


社会
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『「沖縄問題」の本質』日本平和学会編 早稲田大学出版部・2420円

 平和創造を志向する日本平和学会(1973年設立)は、今回で3度、「沖縄問題」を特集として学会誌にて取り上げた。最新号にて、三たび「平和と自立」の視点から「問題」をふ分けする。本書には、特集論文、それ以外の2本の論文、二つの書評が収録されている。紙幅がないため、本書から見える「沖縄問題」を捉え直してみよう。

 特集論文は、共通して沖縄を日本と並列に論じる。国家間の対等性を暗黙の前提にして、例えば日常の中で日米が並列に語られるのはごく普通のこと。

 しかし、自治体と国家を並べるのは異例である。専門家でも、沖縄を取り上げた途端、沖縄と日本を並列に登場させる。島袋純論文は、日本に取り込まれない沖縄の自己決定権を取り上げる。高良沙哉論文は、琉球・沖縄と日本との関係を差別される者、する者だとする。鳥山淳論文は、沖縄の日本への依存、日本からの沖縄の自立を論じる。打越正行論文は、沖縄と日本の「ヤンキー」(専門家は「周辺層の若者」と呼ぶようだ)の違いに着目する。上杉勇司論文は、日米関係と並んで日沖関係を措定する。桐谷多恵子論文は、沖縄の被爆者を広島や長崎の被爆者との違いから浮かび上がらせる。読者は、ここで取り上げられた「問題」こそ「日本問題」なのだ、との理解へと至るだろうと思う。

 それぞれ興味深い論考である。共通して、暗黙のうちに沖縄と日本を並列に置き、それぞれの見地から「問題」を説明する論文構成となっている。過去の特別号の論考もそうだったと思う。今回こそ、なぜ並列に論じるのかを問うべきだったと思う。それを明瞭にすれば、「問題」とすべきこと、その「解決」へと展開したと思う。

 一つに、グローバル化の限界に直面する今、沖縄問題を周辺地域(他の世界)と比較する視点での特集もあり得たと思う。
 平和研究の面白さは、専門分野を跳び越えていけることだ。これらの特集論文が、紛れもなく示している。創造的な研究を生むのも、平和研究である。

(我部政明・沖縄対外問題研究会代表)

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 日本平和学会 1973年設立。日本社会と国際社会の軍事化、さまざまな暴力を科学的・批判的にとらえて、それらの克服をめざす研究活動をしている。学会誌『平和研究』を年2号発行している。