お宝「東江の龍糞」今どこへ 鯨由来の香料、岸本さん追跡 121年前「漂着」の記事も


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宮城県石巻市沖で1955年、マッコウクジラから採取された龍糞。90年に名護博物館に寄贈された

 【名護】121年前の8月、東江村(当時)の浜に漂着した貴重な香料「龍糞」はいずこに―。沖縄県名護市東江の岸本直也さん(59)はひょんなきっかけから隠れた史実に着目し、消えた「東江の龍糞」の行方を追っている。

 龍糞は「龍涎香(りゅうぜんこう)」とも呼ばれ、マッコウクジラの腸にできる結石。中国や西洋で古くから貴重な動物性香料として取り引きされた。「沖縄の宗教と民俗」(第一書房)によると、琉球の産物として琉球王国から江戸幕府などに献上された。

 岸本さんは2年前、母校・東江小学校の年表を見ていて「1899(明治32)年8月 東江海岸に龍糞打ち上がる」との記載を見つけた。周囲のお年寄りらに聞いても誰も知らなかったが、最近になって名護博物館の村田尚史学芸員から、当時の琉球新報の記事があることを教えられた。

121年前に漂着したとされる龍糞について村田尚史学芸員(右)と話す岸本直也さん=6日、名護博物館

 同年8月13日付の本紙は同6日の東江の奇談として「龍糞の様に見えしかば人々は大に喜び、好(よ)き金の蔓(つる)を見出したりとて(中略)男女老若皆な我先にと海岸を駆廻ること三日計にして…」と記す。記事によると人々は競って龍糞を拾い、2~3キロずつ持ち帰ったという。

 名護博物館には東江の龍糞の記録は無いものの、30年前に宮城県石巻市鮎川の捕鯨会社から寄贈された龍糞が所蔵されている。村田さんも同席し6日、石巻市の龍糞と“対面”した岸本さん。保存用のナフタリンの匂いに加え、家畜の糞のような独特な臭いに「う~ん…想像と違う。本来はどんな香りなのか」と想像を膨らませる。

 村田さんは「東江から屋部にかけての海岸は、潮流からよく外洋性生物などが流れ着く。龍糞もその一つだろう」と話した。岸本さんは「龍糞は寄物(ゆいむん)(海からの贈り物)だ。東江の歴史として伝えたい。『自宅に東江の龍糞がある』という人は教えてほしい」と呼び掛けた。情報提供は(電話)090(2398)9212岸本さんへ。
 (岩切美穂)