『沖縄の昆虫 学研の図鑑LIVE ポケットスペシャル』 生きている姿 写真で紹介


社会
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『沖縄の昆虫 学研の図鑑LIVE ポケットスペシャル』槐真史著・編 学研プラス・1430円

 沖縄の昆虫少年・少女はレベルが低い! 出前授業をしにいった先の学校では、クラスイチの虫好きでさえ、当たり前に見かける黒いアゲハの名前も、鳴いているセミの名前も知らなかったりすることはザラだ。その理由は簡単で、こどもたちが手軽に手に入れられて、わかりやすい良い入門図鑑がなかったせいだ。筆者が札幌にいたころ、良質な入門昆虫図鑑が出版され、こどもたちの昆虫リテラシーが急上昇するのを目の当たりにしていたので、沖縄で昆虫に関わる身として、いつかつくらねばならないと思っていた。

 そんな折、さまざまな昆虫図鑑を手がけられてきた著者が、沖縄の入門昆虫図鑑を準備していると耳にした。それはいいことだな、と思う反面、先んじられてしまったことがちょっと悔しい。うーん、悔しさ紛(まぎ)れに、ちょっと悪評でも書いてやろうかと思ったりもしたが、数々の図鑑を手がけられた槐先生の著作だけあって非常に扱いやすい良図鑑に仕上がっており、これは完全に白旗である。

 本書の大きな特徴として、掲載されている昆虫が生きている状態の写真で紹介されていることがある。多くの昆虫図鑑では並んだ絵は標本の写真であり、研究者にとっては使いやすいが、標本になじみがない人にとっては普段見かけている姿とは異なって見えてしまう。標本ではトンボは美しい色を失い、ガは普段は閉じている翅(はね)をピンと伸ばしている。往々にして図鑑の写真と自分の見た生きた姿のイメージが一致しないのだが、本書ではそのまま、生き生きとした姿で掲載されており、しかも普段見かける昆虫はほとんど種類がわかってしまうだろうという掲載量だ。もちろん、見分けにくい種類には専門的な補足説明があり、それもとてもわかりやすくまとめられている。

 この図鑑はお小遣いで買える値段である。虫好きたちはこれを手に持って森に出掛け、ボロボロになるまで読み込んでほしい。いずれこの図鑑では満足できなくなるまで、虫との長いお付き合いの入り口として、これ以上の本はないだろう。

(刀禰(とね)浩一・沖縄市立郷土博物館学芸員)

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 えんじゅ・まさし 1965年生まれ。厚木市郷土資料館学芸員として地域の自然史に関する調査研究、教育普及に従事、地域の生物多様性の保全にも取り組む。著書に「昆虫ウオッチング」(平凡社・共著)、「トンボのくる池づくり」(福音館)など。