2017年度から沖縄県立芸術大学でスタートした「しまくとぅばで学ぶ琉球芸能(舞踊・組踊・歌三線)」の実践教育開発プログラム事業は、早3年を経過した。しかし、今年度は新型コロナウイルスの影響で、実技の対面授業にも制限がかかり、特別講師を招いての実技授業を行う事が難しくなった。
そこで今回、これまでの授業で撮りためた映像資料を活用し、オンデマンド教材を作成することとなり、「琉球舞踊実技」の基礎習得教材として、学生に資料提供ができるよう、研究会全員が一丸となって取り組んでいる。
私の担当する「琉球舞踊実技」の講義においては、真踊流佳幸の会会主宮城幸子先生を特別講師としてお招きし、琉球舞踊における基礎動作を、しまくとぅばを用いてご指導を頂いている。
琉球舞踊の基本姿勢をイメージする言葉「ネーチリ イリレー、 アギ イリレー」(体の丹田にあげを入れる、またはおはしょりを入れるようにする)という、しまくとぅばによる琉球舞踊独特な動作表現を教えて頂いた。
この授業を受講した一人の学生は、「この言葉を学んで、琉球舞踊における基礎姿勢をイメージすることができ、腑(ふ)に落ちた!」と目を輝かせながら話した。
この学生は、本講義をきっかけに、「琉球舞踊における『基礎概念』としての『あげ入れ』の研究」という修士演奏の副論文を提出し、そこで先に挙げたしまくとぅばの指導を、自身の琉球舞踊を理解することにつなげ、これからの実演に生かしていきたいと綴(つづ)った。学生の経験を通して、改めて本事業の意義を再確認し、確信を得ることができた。
琉球舞踊を習得する上で、外側から観察できない身体の内側の部分を、「どのようにイメージし」「操作するか」は、言葉で伝えることがかなり困難である。
しかし、しまくとぅばには先人たちの想像力の豊かさと、後世に伝えるための工夫がなされた表現が数多くあることを、このプロジェクトを通して学ばせて頂いた。伝統芸能の継承においては、目には見えない内側の動作表現・息づかい・間の取り方そして深い内面の想いを、どの様に伝えられるかが今後の課題である。
最後に、ハワイ語研究の第一人者プアケア・ノゴマイヤー氏の言葉に、「文化は流れる川のようなもの、本気で汲(く)みたい人だけがその水を掬(すく)ったら、あとはみんな流れていってしまう」という言葉に触れ、先人が残してくれた沖縄の文化を、一つでも多く本気で掬い後世に繋(つな)ぎたい、と私自身の決心を新たにした。
(沖縄県立芸術大学准教授・琉球芸能専攻)