太鼓や三線の音が消えた今年の旧盆。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、県内では夏の風物詩であるエイサーの道ジュネーの中止が相次いだ。縮小して実施する青年会があった一方で、動画配信や音楽を流して地域を回るなど、新たな手法に挑戦する団体も。エイサーに懸ける地域の青年会の思いを取材した。
3密避け、先祖供養に
旧盆の最終日ウークイに当たる2日、沖縄市久保田では太鼓と三線の音が響いた。多くの自治会が道ジュネーを中止する中、久保田自治会は「地域住民を元気づけたい」と実施を決めた。佐和田辰夫自治会長は、本来の目的である先祖供養を念頭に置きつつ、自粛生活に疲弊する住民を気に掛けていた。「公民館に来て『寂しい』と目を潤ませる人もいた。こんな時だからこそ、地域住民で支え合いたい」
練習時は人数を制限して3密を避け、消毒も徹底した。当日は例年の半分以下の人数で演舞し、見物客との距離を保った。玄関先には太鼓の音に合わせて手拍子を送る地域住民の姿があった。棚原盛行さん(68)は演舞を眺めながら「ちむどんどん(わくわく)するね。練習ができない状態で大変だったと思うが、見られてうれしい」と笑顔を見せた。
屋宜玲音青年会長(21)は「マスク着用など道ジュネーに協力的で感謝している。地域に喜んでもらうことが一番だ」と汗を拭った。
うるま市でも約10ある青年会で、道ジュネーの中止を余儀なくされた。取りやめる青年会が多い中、具志川青年会は2日、「伝統を継承しよう」と実施を決断した。例年より規模を縮小し、具志川地域内を練り歩いた。昨年まで総勢35人で演舞していたが、今年は25人。見物客にはマスクを配布し手指消毒を呼び掛け、感染対策に努めた。
天願虎南(こなん)副会長は「みんなで検討を重ねた結果、実施する決断をした。自治会の人たちからも『ぜひ地域を盛り上げてほしい』と後押ししてもらった」と話した。
午後6時、勇ましい男踊りと優雅で柔らかな女踊りが始まった。パーランクーの音や演者の掛け声が響き渡ると、沿道には自然と地域住民が集まりだした。演舞後には拍手が送られ、青年会をねぎらった。以前は演舞終了が午前0時を過ぎることもあったが、今回は午後10時半には終えた。
スタートから見ていた70歳の女性は「この地域は伝統を大切にするところ。その精神が若い人にも受け継がれているんだと感じた。エイサーがないよりはあったほうがいい。地域に活気が生まれる」と話した。 天願副会長は「地域の人から『旧盆にエイサーがあるのとないのとではやっぱり違う。ありがとう』と声を掛けられた。やりがいを感じた」と話し、今後も伝統を継承していく決意を新たにした。
動画やトラック「どんな形でも」
道ジュネーを断念し、動画を配信した園田青年会。今年、約30年ぶりに新調した旗頭をお披露目する予定が、来年へ持ち越しとなった。刺しゅうにこだわった旗頭の資金集めには、県内外から協力があったという。澤岻幸一郎青年会長(28)は「多くの人が楽しみにしていたと思う。中止は残念だが、動画で雰囲気を味わってほしい」と期待した。
比屋根青年会は軽トラックで道ジュネーの音源を流して地域を回った。音源を収録した約10年前は約30人の会員がいたが、現在は7人に減少。2日は大城俊輔会長(36)と息子の直翔さん(15)と一緒に軽トラックで地域を回った。音楽に気付いて家の外に出てくる住民もいたという。大城会長は「活動を途絶えさせたくなかった。どんな形でも続け、次の世代につなげたい」と語り、直翔さんらに思いを託した。
(下地美夏子、砂川博範)