『沖縄戦75年 戦禍を生き延びてきた人々』 体験の継承が未来を拓く


社会
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『沖縄戦75年 戦禍を生き延びてきた人々』琉球新報社社会部編著 高文研・1980円

 本書は、昨年から琉球新報で掲載されてきた四つの連載を中心に構成されている。その柱となるのは、60人余の体験者の証言だ。証言の中には、聴覚に障がいのある女性が手話で伝えた「無音の戦場」での体験など、初めて知るものも多い。また、戦時中だけでなく、戦前から戦後まで幅広い時期の証言が収録されている。

 記者らの丁寧な取材姿勢からは、体験の継承とは何かを再考させられる。連載「読者と刻む沖縄戦」では、体験者が書いた手記、追加取材で聞いた話、市町村史の記述などを組み合わせて文章が構成される。記者は聞き手として、語り手の言葉に真摯(しんし)に向き合い、問うことで語り手の言葉を引き出し、文献と照らし合わせてその言葉を意味づけていく。語り手と聞き手が協働で体験の継承を地道に行う現場が目に浮かんでくる。

 そうした取材姿勢を支えるのは、体験の継承が「沖縄の未来を拓(ひら)き、平和を築くのだと信じている」という記者の強い意志だ。終盤では、現在のコロナ禍で同調圧力や相互監視が強化されることを危惧する体験者らの声が紹介されている。社会の様子が戦前に似てきているのだという。「『コロナの時代』ともいうべき混乱期」を生きるための指標を、沖縄戦の教訓から見いだそうとする明確な問題意識が非常によく分かる。

 あえて言えば、その取材姿勢と問題意識を生かして、深く掘り下げてほしい点も多い。個人的には、戦前の「混乱期」を生きた若者が日本兵の言動に不信感を持ち、抵抗を試みていたことが分かる証言に興味を持った。そうした不信感や抵抗は、なぜ広まらなかったのか。その背景にあったのは何か。

 こうした課題が明らかにできれば、それは「国難」という名のもとに異論を排除する風潮が強まる現在を生きる私たちにとって、重要な指標となるだろう。また、多様な内容を扱った本書を読めば、読者それぞれに気になる点が出てくるはずだ。それがさらなる探求の入り口になるに違いない。沖縄戦をより深く知るきっかけとして、ぜひ手にしてほしい一冊だ。

(北上田源・大学非常勤講師)

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 「戦禍を生き延びてきた人々」は、琉球新報で2019年10月から20年6月に報じた四つの連載「あの日、あの場所で 10・10空襲で破壊された街」、「奪われた日・再生への願い 戦後75年県民の足跡」、「読者と刻む沖縄戦」、「憲法とコロナ―沖縄の現場から」と、二つの1面トップ記事を収録した。

 

琉球新報社社会部 編著
四六判 262頁

¥1,800(税抜き)