池上永一さん新作長編「海神の島」全国で発売 「とにかく面白いものを」


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 2017年に小説「ヒストリア」(角川書店)で第8回山田風太郎賞を受けた、県出身の作家・池上永一さん(50)の受賞後第1作「海神(わだつみ)の島」(中央公論新社・2090円)が9日、全国発売される。オンラインインタビューで池上さんは「とにかく面白いものをと思い、過剰なくらいの情報量を入れた」と自信を見せた。再建作業が進む首里城については、どのような首里城を後世に残していくか、一人一人が個人の思いを投影する重要性を強調した。

 「海神の島」は2019年に読売新聞オンラインで連載した長編で、「海神の秘宝」を巡って沖縄の3姉妹の欲望と日本、米国、中国の思惑が交差する冒険譚(たん)。池上さんのメッセージも随所で感じられ、沖縄や日本を取り巻くさまざまな問題について考えさせられる。

 基本的にはキャラクターが縦横無尽に駆け回るエンターテインメント作品だ。池上さんは「すごくセンシティブな題材を扱っているので大上段から語るのではなく、登場人物にひたすら下世話なことをさせた」と読みどころを語った。

 08年発表の小説「テンペスト」で舞台にした首里城が、昨年10月末に焼失した際は「人格のほぼ全てを託していた、自分の一番大事なものが壊れた。幽霊になった気分だった」と振り返った。再建作業が進むが「同じものはできない」と指摘。「どういう視点で新しい首里城を自分たちに残すか、投影が希薄な気がする。一人一人が首里城に対する自分の思いを持てるかどうかだ」と力を込めた。

 「海神の島」は県内の書店には9月中旬に並ぶ見通し。(宮城久緒)

池上永一さん(ホンゴユウジ撮影)
池上永一著「海神の島」(中央公論新社・2090円)