『青い眼が見た幕末・明治 12人の日本見聞記を読む』 個々の活動束ねる視点


社会
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『青い眼が見た幕末・明治 12人の日本見聞記を読む』緒方修著 芙蓉書房出版・2420円

 幕末は開国をめぐる内外動乱の時期であり、明治は開国を強要した西欧列強を模範に日本近代国家を創る時代である。この一大変革の時期を日本人は、どう生きたか。それを青い眼(め)に投影された記録から探り出したのが本書である。12人の外国人の眼を通して描く幕末・維新史であり、国際的に活動する人々と日本人との国際関係を織りなす国際政治であり、交流史だ。個々の活動を大きな流れの中に束ねた視点に、本書の魅力がある。記録の紹介にとどまらず、現代の研究水準の地平まで、引き揚げている。平易な文体で難問を解き明かす魅力が潜む。

 12人の外国人は、幕末明治の日本に滞在し、経験を記録に遺した。国籍も職業をも異にするが、その観察の眼は、等しく幕末・明治日本の社会の現実を掘り下げ、西欧文明の流れの中でとらえ、今日の日本人へ伝えてくれる。いわば、日本近代史を見る目を世界史的に豊かにしてくれた歴史の恩人である。その交流史の見晴らし台を築いてくれたのが本書である。

 外交官の場合は、彼の日本での行動と本国との関係を国際政治の織り成す中に位置付けている点である。その見方の新鮮さ思考能力の豊かさは、日本の置かれた国際環境を理解する方法へとつながっている。

 時にその発想は、現代にも通じるし、支配者の思考の固定化状況は、今日も引き継いでいるのかと錯覚するほどである。サトウの叙述のところでは、萩原延壽の『遠い崖』にも触れていて、その裾野(すその)の広さを感じる。メーチニコフの農民一揆論にも眼を向け、遠山茂樹、羽仁五郎らの研究も触れている。研究の深さが見える。敗者にまわるサトウの友人ウイリスへの温かい叙述にも心引かれる。

 最後に、「はじめに」の著者の個人史、自分史に触れておきたい。広い意味で、個人の記録は、すべて自分史ということになるかもしれない。現代の政治も過去からの遺産である。著者のことばは、明治の変革は、現代に連続し、その真っただ中に生きていることを痛感させられる思いである。

(山梨学院大学名誉教授・我部政男)

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 おがた・おさむ 1946年、熊本県生まれ。中央大卒。文化放送記者・プロデューサーを経て99年に沖縄大学教授になり、現在、東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター長など。主な著書に「青い眼の琉球往来」など。