『爆走小児科医の人生雑記帳』 「わくわく感」満ちた生き方


社会
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『爆走小児科医の人生雑記帳』大宜見義夫著(幻冬舎メディアコンサルティング・1320円)

 大多数の大人は、自分が子どもだった頃の心を忘れて、人生を味気ないものにする。

 大宜見義夫氏は少年時代の冒険心、好奇心、ロマンを80歳過ぎた今も持ち続けている。そのような経験から、子どもたちの心がよく分かり、共感することができるのだろう。誠に子どもたちへの愛情にあふれた、成るべくして成った小児科医であるように感じる。大宜見氏はおおぎみクリニックを23年間にわたって開業していたが、シンボルマークはABCであり、Adventure(冒険)のA、Brilliancy(ひらめき)のB、Curiosity(好奇心)のCである。

 ABCが意図する意味を総合すると「わくわく感」であると言う。氏は子どもたちに共感し、「わくわくしながら」毎日の診療を行っているのだろう。

 本書の構成は、小児科外来点描、ター坊物語、迷走と模索の自分史、発達障害臨床録、ショートエッセイ、テーマエッセイの6章から成り、各章ごとに4本から10本のエッセイが載っているが、その全てがクリニックのシンボルマークと同じように冒険とひらめき、好奇心、わくわく感に満ち溢(あふ)れている。

 特に第二章「ター坊物語」は大宜見氏の孫の話だけにター坊の心が手に取るように生き生きと描かれる。母親のター坊に対する接し方がまた素晴らしい。「五歳児ター坊の決断」では大好きなクララちゃんとの約束を果たすために、自分の意志で手術を受けることを決断するくだりは思わず涙が出て、おじいちゃんならずとも「あっぱれ」と言いたい。

 タイトルが爆走小児科医になっているように、オートバイもテーマの一つである。34歳の時、シルクロード2万3千キロをヤマハDT250ccで走破した時のイランの砂漠での写真と、68歳になりアメリカ合衆国を横断してハーレーダビットソン1450ccで爆走した時のユタ州の茫漠とした平原での写真が載せられている。驚くべきは34歳の時より68歳の方がいっそう精悍(せいかん)な風貌である。

(中山勲・玉木病院院長)

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 おおぎみ・よしお 1939年那覇市生まれ。名古屋大学医学部卒業。北海道大学医学部大学院で小児科学を専攻。1987年県立南部病院勤務を経て、おおぎみクリニックを開設。2010年おおぎみクリニックを閉院。