『戦争孤児たちの戦後史1 総論編』 国に見捨てられた子たち


社会
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『戦争孤児たちの戦後史1 総論編』浅井春夫・川満彰編(吉川弘文館・2420円)

 「私たちが生きている日本社会にとって、戦争孤児を生みだした歴史に学ぶことは、戦争という歴史を二度と繰り返さない力になる」。これは本書の執筆者の言葉である。「なぜ今、戦争孤児なのか」という疑問に答えるだけでなく、全執筆者の姿勢に繋(つな)がる本書の特性をも示している。

 本書は浅井春夫、川満彰を編者にして全3巻の出版が予定されその第1巻総論編となっている。執筆者には大学教授、歴史学者、戦争孤児体験者、児童福祉相談員など14人が専門の研究分野から戦争孤児たちにスポットを当て戦後史の今に繋がる課題を明らかにしている。沖縄からは編集責任者の一人、川満彰(名護市史編さん室勤務)と石原昌家(沖縄国際大学名誉教授)が参加している。

 それにしても明らかにされている戦争孤児たちの実態には驚かされる。一人の執筆者は「戦後、国が孤児を見捨てていたことは明らかである」と言い切る。他の執筆者は「孤児たちの戦後は、国からの支援は一切なく、『勝手に生きろ、勝手に死ね』と放り出され、悲惨な道を辿(たど)った」とも言う。1948年厚生省の調査で戦争孤児は12万3511人とされているが、数字は少なく見積もられた疑義があり、またこの数字には沖縄は含まれていないという。さらに復帰直後にまとめられた全国の数字にも沖縄県の実態は反映されなかったという。沖縄戦と同じように孤児問題でも沖縄は「捨て石」にされたのだと一人の執筆者は記している。体験者の証言も収載されているが、孤児たちの事情はさまざまで弱い者が最も大きな被害を蒙(こうむ)る戦争の理不尽さには心が痛む。

 本書の特徴の一つは、「世界には戦後史なるものは未だに存在していない」として世界の孤児問題にも視野が広げられていることだろう。「戦争孤児の戦後史研究は子どもたちが平和に生きていける世界の実現に貢献すべき責任の重い研究領域である」とする執筆者たちの姿勢には共感することが多く学ぶことの多い一冊である。

(大城貞俊・専門学校非常勤講師)

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 あさい はるお 1951年京都府生まれ。立教大学名誉教授。専門分野は、児童福祉論、セクソロジー。

 かわみつ・あきら 1960年、コザ市(現・沖縄市)生まれ。名護市教育委員会文化課市史編さん会計年度任用職員。