辺野古移設「反対」貫いてきた区に変化 区民を揺さぶる振興策 


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新基地建設や振興策についての考えを県議団に伝える(左手前から奥に)棚原憲栄久志区長、宮城直美豊原区長、古波蔵太辺野古区長=9日、名護市の辺野古区公民館

 【名護】米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設を巡り、新基地予定地に隣接する久辺3区(辺野古、豊原、久志)で唯一「反対」の立場を維持してきた久志区の姿勢に、変化が生じている。9日に行われた県議会米軍基地関係特別委員会との意見交換会で、同区は反対を明言しなかった。背景には国が提示した地域振興策がある。国が各区とさまざまな振興策について協議する中、反対を貫きにくい環境が生まれている。1997年の反対決議から23年、区民は国策に翻弄(ほんろう)され続けている。

 9日の意見交換会で棚原憲栄区長は「(区民に)反対の気持ちは残っているが、20年間で変わってきている現状もある」と複雑な状況を説明した上で「国に対し久辺3区で足並みをそろえようという気持ちは固まっている」と述べた。

 会合後、本紙の取材に棚原区長は「容認に転じた訳ではない。反対決議は生きている」と断言した上で「振興策の協議が進む中、あの場で『反対』を強調すると久志だけが取り残される不安があった」と苦しい胸の内を明かした。

 辺野古、豊原が反対から条件付き容認に転じた後も反対を貫いてきた久志。2016年3月、国が市を介さず直接3区に交付する再編関連特別地域支援補助金を「騒音など基地被害の迷惑料として」受け取ることを区民総会で決定した。移設反対は堅持した。国は15~17年度、久志に計7288万円を交付し、区民交流施設や倉庫が造られた。

 19年1月には沖縄防衛局が、再編交付金を原資とするコミュニティ基金を用いた振興策を3区に提示。16~20年度は3区合計で年間平均6千万円が市を通じて交付された。防衛局は昨夏、各区との間で「振興策協議会」を設立し、振興策の要望を聞き取っている。辺野古では数年前から基金を使った小中学生対象の塾が開講し、豊原では塾に通う小中学生への補助が7月に始まるなど、さまざまな事業に基金が活用されている。現在は久志が避難橋、豊原が区内の道路整備などを要望している。

 移設反対を掲げながら国からの補助金や振興策を受ける、そんな矛盾した状況に、移設案が浮上して間もない1997年に決議を採るため署名活動を展開した宮里憲一郎さん(79)は「容認と受け取られると危惧してきた。もらえるものはもらった方がいいと考える区民が増え、当時とは全然違う」と語り、ため息をつく。

 行政委員の森山憲一さん(78)は「反対決議は取り消していないにすぎず、今の状況は死んでいるに等しい。本来は区民の意思を問い直すべきだ」と指摘する。

 しかし、長年国策に翻弄され続ける区民には疲弊感も漂い、再決議の議論は盛り上がらない。元区長の比嘉清隆さん(68)は「再び決議を採って条件付き容認に転じたとしても、市長選の度に誰が選ばれるかで状況は変わる。新たなわだかまりが生じるだけだ」と指摘。「確かに矛盾しているが、基地建設を止めるのは難しい。それならこのまま振興策を進めた方が区のためだ」と語った。

 国の手厚い振興策が、地元の心を試すように揺さぶり続けている。 (岩切美穂)