<シネマFOCUS>映画「はちどり」 中2少女の理不尽な日常に差す光 


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ

 あまりのみずみずしさに息をのむ。

 1990年代の韓国。男性の絶対的優位と学歴社会を時代背景にして、中2の少女ウニの日常が描かれていく。自営業の両親は忙しく子供たちに細やかにかまう余裕がない。

 姉は志望校を落ちて、家ではできそこない扱い。兄は親の期待を一身に受けて、そのストレスを妹への暴力で晴らす。ウニは学校にも家にも自分の居場所が見つけられず、塾の友達とつるんでは少し悪さをする。

 なんとも閉塞(へいそく)感に満ちた状況なのに、あらがいがたい理不尽さばかりが漂っているのに、物語は光に向かって進んでいく。親友の裏切りや、ころころ変わる思春期の嗜好(しこう)に振り回されることさえも、ウニを確実に成長させていく。誰かが自分の話に耳を傾けてくれた、誰かが自分の未来を信じてくれた。

 そんなささいなことがウニの日常を照らしていくのも心地よい。映画に差す柔らかな光も、頬をなでる風もウニと一緒に味わうことのできる幸せな一品。監督はキム・ボラ。

(スターシアターズ・榮慶子)