<記者解説>和牛血統不一致 個人の違法行為で終わらない 抜け道ない環境を


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 久米島町内の家畜人工授精師による和牛の血統不一致問題で沖縄県は人工授精免許取り消しの行政処分を下し、一連の問題は一つの節目を迎えた。

 だが、久米島で問題が発覚した後も血統不一致の事例が県内各地で報告されており、特定の個人の違法行為だけでは片付けられない。子牛産地として信頼回復を図るには県全体で授精業務の実態を明らかにし、不一致を起こさない環境の整備が求められる。

 県のDNA検査で見つかった血統不一致は56頭と異例の数となっている。事態把握後も市場で競りが継続されたこともあり、県外から訪れる購買者らの批判や不信を招いた。

 県は行政処分の決定に当たり、不一致頭数の多さや、書類の記入漏れなど業務がずさんだったことから悪質と判断した。社会的影響も大きく、「県内の肉用牛振興に不利益を与えた」(久保田一史県畜産課長)ことも考慮された。

 家畜人工授精師の免許は、県知事が交付する国家資格だ。これまで業務の信頼性は家畜人工授精師個人のモラルに一存される部分が多かった。定期的な講習はなく、立ち入り調査もほとんどなかった。

 この問題を受けて県が人工授精師の立ち入り調査を実施したところ、授精証明書の記入漏れや免許の紛失などが散見された。今回に限らず、血統不一致はどこでも起こりうる可能性がある。関係機関でチェック体制を整え、悪質な業務や作業ミスの抑止力を強める必要がある。安全性や透明性が求められる「食」の現場で信頼を回復するには、抜け道のない環境を作ることが鍵となる。

(石井恵理菜)