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琉球諸島ではシマごとに、または時代によって、さまざまなウタが歌われてきた。これらのウタは記録され、いくつもの歌謡集に纏(まと)められているが、シマによって異なる言葉や、暮らしのありさまの変化など、私たちがこれらのウタを理解するためにはいくつもの壁がある。また、あまりにも膨大で何から手を付ければ良いのか分からないといったこともあるだろう。気軽にウタに触れられるものがこれまで無かったように思う。
本書には琉球諸島で生み出されたウタの中から選りすぐりのものが詰め込まれている。オモロと琉歌を外間守善が、その他の歌謡を波照間永吉が、近代の短歌と俳句を仲程昌徳が、ウタの選択と解説をしている。長年それぞれの分野の研究をけん引してきた方々である。いずれもその分野や時代を理解する上で必要なウタが選ばれている。そして、短いが的確な解説が付されたことで、ウタの理解を助けている。琉球諸島のウタの入門書としてお薦めの本だ。
しかし、歌集としては読みにくい。本書は1991年1月から3年4カ月にわたって「沖縄タイムス」に連載されたコラムを纏めたものだ。毎日一つずつ読むには良いだろうが、続けて読もうとすると、途端につかえて混乱してしまう。
「明けまもどろ 見れば へにの鳥の舞ゆへ 見物(みもん)」と日の出の美しさを鳳凰が舞う姿に喩(たと)え賛美するオモロが紹介されたかと思うと、末吉落紅の「親の親の遠つ親より伝へたる この血冷すな阿摩彌久の裔」がくる。「あかぬ色染めれかなし里前」と恋を歌った琉歌の後には「戦企(くぬ)めーるぃ奴(んざ)どぅ我(ばな)あ恨み 行くだ我(ば)ー子(ふぁー)や今迄ん戻らぬ」と我が子を戦争で亡くした苦しみを歌うトゥバラーマが並ぶ。テーマも言葉も韻律も時代も異なるウタが雑多に投げ込まれているのである。だがこれほどまでに多様なウタがあったのかと驚かされるに違いない。そして、さまざまなウタに触れるうちに、それぞれの心に響くウタや言葉に出会えるだろう。
(前城淳子・琉球大学准教授)
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ほかま・しゅぜん 1924年那覇市生まれ。沖縄学、言語学、琉球文学研究。2012年没。
なかほど・まさのり 1943年テニアン島生まれ。近現代沖縄文学。元琉球大学教授。
はてるま・えいきち 1950年石垣市生まれ。琉球文学、民俗文化。名桜大学大学院教授。