芸能・文化

『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』 各大臣らの見事なスクラム

『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』野嶋剛著 扶桑社新書・968円

 台湾の新型コロナウイルス封じ込めを巡り、国民ID番号や健康保険カードを提示して特定の薬局や保健所でマスクが買えるアプリを開発したオードリー・タン(唐鳳(とうほう))氏は、日本のメディアでも度々取り上げられた。「天才IT大臣」らによる4日間のアプリ開発は「第二章 マスク政治学」に詳しい。

 他にも「鉄壁のゴールキーパーたち」と称されるヒーローがいる。「一蘇三陳」と呼ばれ、省庁横断の調整を図った蘇貞昌(そていしょう)行政院院長(首相)と陳其邁(ちんきまい)同副院長(副首相)、蔡英文(さいえいぶん)総統と共に政策全体を見渡す参謀総長の役割を果たす公衆衛生専門家の陳建仁(ちんけんじん)副総統、衛生福利部部長(厚生相)で中央流行疫情指揮センターの陳時中(ちんじちゅう)センター長の4人だ(肩書きはいずれも当時)。

 さらに、睡眠時間を削り台湾、中国のサイトを閲覧し、最新情報を得て12月31日の初動に導いた台湾CDCの羅一均(らいっきん)副署長、国内マスク生産を指揮した沈栄津(ちんえいしん)経済部長(経済相)らがスクラムを組んだ。

 彼らの活躍ぶりは「第三章 台湾の新型コロナウイルス対策を総ざらいする」「第四章 『SARSの悪夢』から台湾が学んだもの」「第五章 蔡英文政権の強力布陣と『脱中国化』路線」で活写される。

 一躍脚光を浴びたのは「鋼鉄部長」「阿中部長」の異名を取る陳時中氏だ。陳氏は司令塔として最前線で感染拡大防止の指揮を執りながら、毎日午後2時に記者会見を開き記者の質問に答えた。5月末時点で150日連続だ。そこから出た「名言・金言」がネットをにぎわす。試みに検索すると「陳時中『25金句』回顧」(三立新聞網)という動画付きサイトにヒットした。武漢からのチャーター機を出迎えた空港で、陳氏は医療スタッフらをこうねぎらった。「顔のN95マスクの跡は歴史の痕跡だ」。コロナ禍で人々が不安に陥る中、陳氏の日々の言葉が「精神安定剤」と呼ばれるゆえんだ。

 読みながら思うのは、それに引き換えわが日本は…。宰相のこの言葉が、国民の心に響いただろうか。

 「間髪を入れず…全力で…徹底した下支え…きめ細かい対策…リーマン・ショック級を上回る大胆な…世界でも類を見ない大規模な…」

(友寄貞丸・ライター)

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 のじま・つよし 1968年生まれ。ジャーナリスト。大東文化大学社会学部特任教授。元朝日新聞台北支局長。2016年4月に独立し、中国、台湾、香港、東南アジアの問題を中心に活発な執筆活動をしている。



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