[日曜の風・吉永みち子氏]サンマ裁判 民主主義を取り戻す戦い


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 天高く馬肥ゆる秋。秋の味覚のひとつにサンマがあるが、そのサンマが大きな賞に輝いた。沖縄テレビが制作した「サンマデモクラシー」が、視聴者に感銘を与えた優れた番組に贈られる放送文化基金賞のテレビエンタメ部門で優秀賞を受賞したのである。企画段階から応援していたので、正直とてもうれしい。

 沖縄の人たちは、みんなサンマ裁判のことを知っているから驚かないのかもしれないが、私はサンマと民主主義という不思議な取り合わせに最初ポカンとしていた。恥ずかしながら、サンマ裁判のことも玉城ウシさんの名前もまったく知らなかったのだ。

 戦後のアメリカ統治時代、沖縄に君臨していたのは高等弁務官という存在。その三代目がキャラウェイという強面(こわもて)で、日本から輸入している穴子や蛤(はまぐり)や海老やタコなど名指しで20%の関税を課した。指名されなかったサンマもなぜか税金を徴収されていた。これにおかしいと声を上げたのが魚の行商をしていたウシさんだ。今まで払った税金は違法徴収だから全額返せと当時の琉球政府を相手取って裁判を起こしたという。

 これがサンマ裁判の1回戦。返還要求額は4万6987ドル。当時の円換算で約7千万円とか。そして一審も二審も勝訴したという。が、頭にきたキャラウェイは布令を改正して第二のウシおばあが出ないようにしたため、今度は漁協が改正案無効を訴えて第二サンマ裁判を起こした。焦ったキャラウェイはアメリカの裁判所で裁くために裁判移送という手を使った。つまりは司法権、自治権をあからさまに奪うという暴挙。そのため裁判には負けたが、これがきっかけでサンマを守る戦いは、2回戦では民主主義を取り戻すという戦いに変わって大きなうねりになったという。情けなくも私は、ここでやっとサンマとデモクラシーの繋(つな)がりを理解した次第。

 日本でも世界でも民主主義の危機とか劣化とか言われている。が、おかしいことにおかしいと声を上げる民がいなくなると、おかしなことがおかしいまま、まかり通って、危機やら劣化が起きる。アメリカに果敢な戦いを挑んだ玉城ウシさん、おかしなことに無関心になってしまった今の人々にさぞかし歯がゆい思いをしていることだろう。

(作家)