『談論風発 琉球独立を考える』 平和共存への道を示唆


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『談論風発 琉球独立を考える』前川喜平、松島泰勝編著 明石書店・1980円

 世界は自国優先を堂々と唱える大国が出だして、第2次大戦以来何とか維持されてきた国際協調体制が危機に面している。

 本書の第一の読後感は、平和共存の世界秩序をどう21世紀において維持・強化できるのかを示唆してくれるいくつもの切り口が読み取れたことだ。沖縄をめぐり南太平洋の先住民族、アイヌ民族、中国東北地方の人々の尊厳回復への闘いはどのような土俵で、どのような手法と根拠で妨げられてきたのかをリアルな表現で各地域の識者との対談形式で論じている。

 長らく教育現場からアフリカや南の地域を見て、考えてきた評者にとってとりわけ興味深かった論点を2つだけ挙げておこう。

 まずは八重山の教科書採択問題。東アジアの平和共存が緊急の課題となっている現在、ゆがめられた東アジアの歴史を、教材によって子供たちに教えることに断固として抗した対談でも登場する、竹富町の西表島の石垣金星氏のような島芸能の継承者たちや、その本質を理解して制度的工夫で、霞が関から支持したいずれも勇気ある人々の談論は、「真実は汝(なんじ)を自由にするという」をモットーとする私立大学にいた自分にとってさすがと感心した。

 もう一つはニューカレドニアの独立問題。南太平洋のフランス領の島の先住民族の尊厳への希求は、大国による「自由で開かれたインド太平洋」といった当事者不在のグローバル戦略でかすんでしまっているが、談論では地域専門家佐藤幸男氏がこの島の人々の独立とは、もうかるという経済的理由でなく、何よりも自分たちのアイデンティティーであることを見抜いている。帝国はその周辺の人々の扱い方によってその正体を露出するが、島の虐殺と屈辱の歴史を知れば知るほど「独立」という自己決定権の行使しか希望の道はないことを示唆している。

 脱植民地化の根拠と段取りを明示した国連憲章、それを上回る国際間の絶対平和原則に立った日本国憲法、いずれも今もっとも追及しなければならない国際社会の上位規範であることを琉球・オキナワ発のメッセージで教えてくれる本だ。

 (勝俣誠・明治学院大学名誉教授)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 まつしま・やすかつ 龍谷大学経済学部教授。琉球独立を目指す研究や運動で活躍。「琉球独立宣言」(講談社)など著書多数。

 まえかわ・きへい 元・文部科学事務次官。現代教育行政研究会代表。主な著書は「面従腹背」(毎日新聞出版)。共著多数。