「未知」の医療現場に臨む記者 正確な報道、問われる役割<新型コロナ取材ノート>


この記事を書いた人 Avatar photo 上里 あやめ
新型コロナ患者の治療を行うICUへ入る前、マスクを装着し、念入りに確かめ合う医師ら=2020年5月、うるま市の県立中部病院

 「医療現場に取材に行けないか」。県内で新型コロナウイルス感染症の患者が増えてきていた4月半ば、逼迫(ひっぱく)する医療現場の取材を指示された。「未知の感染症」に対する病院の対応や現場の状況を伝えることは大切だ。しかし、もし自分が感染して周囲に広げてしまったら、と悩んだ。

 琉球新報社編集局では、今年2月、同感染症の取材報道指針が作られた。病院などの医療施設や感染者がいる可能性がある空港・港湾施設などへの立ち入りを極力避けること、取材は電話やメールにとどめることなどを確認した。しかし、新規感染者が減少傾向だったこともあり、5月初めに県立中部病院などでの取材に踏み切った。

 「記者は現場が大事だ」と言われる。当然そう考えてきたが、コロナ関連の取材はそうもいかなかった。

 7月以降の「第2波」では、医療機関や高齢者施設などで集団感染が起き、高齢者が重症化して相次いで亡くなった。感染が発生した施設には、外からウイルスが持ち込まれたとみられた。無症状でも感染させることも分かってきた。感染への不安もあったが、それ以上に相手にリスクを負わせることは避ける必要があった。

 現場取材は上司に相談し、その都度、慎重に判断した。一方で、県が発表する死亡者や新規患者数などを書き続ける日々に焦燥感が募った。現場に行けない、行かないことへの後ろめたさ、自責の念にかられた。

 そうした中、現場を知るわずかな手段が、県医師会館での勉強会だった。ある医師は、要介護者がいる高齢者施設での感染拡大が、人手が不足している現場でどれだけ過酷かを語った。

 感染者が減少を見せていた9月下旬、勉強会で医師が嘆いた。「患者から『もうコロナ収まったでしょう』と言われるんです」。実際には外での会食などから家庭内に感染が広がっている状況だった。一人一人が対策を怠れば一気に感染が拡大するのが新型コロナの特徴だ。正しく情報を伝え、対策を呼び掛けるメディアの役割は小さくない、と感じた。

 コロナ禍は取材の形も変えた。相手と距離を取り、マスクを着用し、短時間で。感染者数が落ち着いていた慰霊の日の前には、こうした対策を取って沖縄戦体験者を取材した。コロナ禍でも事実に迫り、記録し、問題に向き合う。慎重に、冷静に伝え続ける報道の役割が問われていると感じる。 (中村万里子)

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 第73回新聞週間が15日、始まった。今年は新型コロナウイルスが世界的に猛威をふるい、人々の生活は変化を余儀なくされた。取材活動も同様に制限され、真偽不明な情報も飛び交うなど、報道機関として模索する日々が続いた。この状況だからこそ、読者に正確な情報を伝える新聞の使命が改めて問われている。難題と向き合った記者の思いを紹介する。