朗読、音楽、舞踊がコラボ 舞台「一千一秒物語」幻想の世界観も織り交ぜ


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朗読で物語を展開する蔵元利貴(右奥)=11日、那覇市のパレット市民劇場

 稲垣足穂(たるほ)の短編小説集を文学と音楽、舞踊で展開した舞台「一千一秒物語」(ビューローダンケ主催)が11日、那覇市のパレット市民劇場で上演された。稲垣の不可思議で抽象的な詩を基に、作曲家の三ッ石潤司が音楽を付けた作品で、上演は約28年ぶりだ。今回の作品では音楽と蔵元利貴の朗読に、安村秀熙(バレエ・振付)と宮城茂雄(琉球舞踊)が初めてコラボレーションした新しい試みで、表情の豊かさが観客を魅了した。演奏はダンケチェンバーアンサンブルが務めた。

 冒頭、蔵元の前口上で始まり、渡久地圭(フルート)らの爽快な音楽が奏でられた。蔵元は詩が書かれた原稿を安村に持たせようとするが、目隠しした安村は操り人形のような不可思議な動きで、原稿がパラパラと落ちていくのが目を引いた。

 「ある夜倉庫のかげで聞いた話」では、照屋恵悟(ピアノ)の怪しげな演奏で、舞台上に三日月が現れた。はかなげな音楽で始まる「A MEMORY」では、蔵元が安村に小石を授け、目隠しを外された安村はゆっくりと舞った。真っ暗な舞台に宮城が登場し、宮城の唱えと音楽、安村の踊りが美しく融合した。

 「ポケットの中の月」では、繊細な音楽で宮城の独舞が魅了した。「嘆いて帰った者」では、真っ暗な舞台に横たわる宮城に安村が小石を手渡すシーンも印象的だった。安村が大きくステップを踏みながら激しく独舞した「月光密造者」も引き付けた。

 「月のサーカス」や「友だちがお月様に変った話」では、演奏者も舞台の中を漂いながら、幻想的な世界観を表現した。

琉球舞踊とバレエをコラボレーションして見せる宮城茂雄(右)と安村秀熙

 最後は「A MOONSHINE」。照屋恵悟(ピアノ)や新垣伊津子(ビオラ)、田場尚子(バイオリン)、金城由希子(同)、上原玲未らの一音一音、繊細に奏でるメロディーと、安村と宮城のゆっくりとしたたたずまいと手の動きが融合し心をつかんだ。舞台に一人たたずむ蔵元が、手の届くような位置まで降りてくる月を受け止めようとする場面で終演した。

 そのほか「ガス燈(とう)とつかみ合いをした話」「星でパンをこしらえた話」など全17編を展開した。

 ビューローダンケ代表の渡久地圭(フルート)は「創作を通じて、改めて芸術が持っている意味を考えさせられるきっかけにもなった」と振り返った。舞台は映像作品に収録されており、今後は有料で配信される予定。 (田中芳)