ホテル名の公表、その後の影響は? 「信頼が増した」との声 表現巡ってハレーションも<新型コロナ取材ノート>


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 田吹 遥子
米軍基地内の感染拡大で人通りが減り、閑散とする北谷町のアメリカンビレッジ=7月13日、北谷町美浜

 「あの会社でも感染者が出ているのに、なぜ載せないのか」。本紙には読者からこんな声が寄せられる。従業員の感染に関する企業の公表はさまざまだ。プレスリリースを出す社もあれば、ホームページに掲載するだけの社も、一切公表しない社もある。現在、新聞に掲載しているのは企業が公表したものだ。

 3月23日、オリオンビールは、グループ会社のホテルロイヤルオリオン従業員の感染を発表した。ホテル従業員の感染は県内で初めて。ホテル名を公表することで、風評被害なども当然考えられたが、それ以上に隠して県民に不安を与えるのはよくないと判断した。

 矢沼恵一人事総務本部長は「公表してよかった」と振り返る。長年の顧客から「まじめな姿勢に信頼が増した」という声が寄せられ、近隣の店からも「いい判断だった」と評価された。「企業の一挙手一投足を世間は見ている。世の中に対して正直であることが大切だとかみしめた」

 一方、情報が少ないことで、地域が不安になった例もある。

 新型コロナ感染防止対策として、在沖米海兵隊が北谷町内のホテルを借り上げ、海外からの人事異動者などを対象にした隔離施設として使用することを7月、同町が明らかにした。

 本紙は複数の関係者の証言から該当ホテルを特定し、町民をはじめとした読者の知る権利に応えるため、ホテル名の公表に踏み切った。他のホテル関係者から「『ここの施設か』と問い合わせが複数ある」という不安の声も公表への後押しとなった。

 報道後は「自分たちのホテルではないという証明になり、正直ほっとした」と安堵(あんど)の声が寄せられた一方で、“感染大国”である米国からの異動者の基地外隔離は、周辺住民の不安や観光客などの減少につながった。

 ホテル借り上げの第一報は「異動者コロナ対策/米軍、基地外で隔離措置/北谷のホテル、町は反発」という見出しで報じた。報道に対し、「(予防対策であるのに)あたかも感染者が隔離されているような印象を与えた」と北谷町商工会、町観光協会などは琉球新報社に抗議した。

 基地内の感染急増やホテル借り上げを受け、県内屈指の観光地である北谷町からは人足が遠のいた。借り上げ報道の週には町内ホテルで300件を超えるキャンセルがあった。

 米須義明町商工会長は報道を振り返り「内容に間違いはなかったが、インパクトを与えたいがために、誤った印象を植え付けたことは否めない」と断じる。「情報は尾を引き、いまだに『北谷は大丈夫か』と聞かれることもある。発信力があるが故に表現一つの影響をもっと自覚すべきだ」と強調した。

 新聞報道は市民の知る権利に応えることが大きな使命だ。報道は時にハレーションを生むこともある。しかし、知り得た情報は基本的には読者のものであることを肝に銘じつつ、事実が分かりやすく表現されているか、常に点検し責任を果たしていきたい。 (玉城江梨子、新垣若菜)