悲恋の世界に引き込む 人情歌劇「狂女の舞」 本年度、観客迎え初公演 かりゆし芸能


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 かりゆし芸能公演(県文化振興会主催)時代人情歌劇「狂女の舞」(石川文一作)が9日、浦添市の国立劇場おきなわであった。本年度、最初の観客を迎えたかりゆし芸能公演となった。那覇市文化協会演劇部会より、瀬名波孝子と本年度追加認定の県指定無形文化財「琉球歌劇」保持者4人らが出演し、悲恋の世界に観客を引き込んだ。

愛する真三郎に裏切られ気が狂うウサ小(右・伊良波さゆき)と、その姿を哀れむ友人のカミー小(奥平由依)=9日、浦添市の国立劇場おきなわ

 「狂女の舞」は、ジュリのウサ小(伊良波さゆき)と貧しい士族の新垣真三郎(金城真次)の不幸な運命を描く。

 ウサ小は、酒席で知念里之子(上原崇弘)にからかわれる真三郎を助けたことをきっかけに恋に落ち、豆腐売りに身をやつして真三郎の立身を手助けする。やがて真三郎は科挙を一番で合格するが、知念里之子は不合格となり縁談相手・真加戸(知念亜希)と破談した。真三郎はウサ小を妻に迎えると誓い、母(赤嶺啓子)やジュリアンマー(瀬名波)らも2人を祝福した。しかし、真三郎は真加戸の父・仲地親方(髙宮城実人)から立身の志を利用され真加戸との結婚を迫られ、心が揺れる。

 伊良波は一景で、よく通る歌声で快活なウサ小を表現した。対して、真三郎の裏切りで次第に正気を失っていく五景と六景では、豊かな声量はそのままに語頭を強調するような歌唱法で、不気味さを演出した。失意に沈むウサ小が井戸に身を投げる場面は、生気を失った表情で、ゆったりとした足取りで井戸の縁に立ったかと思えば、サッと身を投げ、緩急をきかせた動きで恐怖を引き立てた。

 金城は、誠実な青年から出世欲にくらむ悪人、狂う男を演じ分けた。ウサ小を背負い井戸に落ちる場面は、誠実だったころの真三郎の面影を戻した。同場面は、身投げを思いとどまらせようと息子にすがる母・赤嶺の名演と共に、怖さが際立つ終盤を人情劇へとまとめ上げた。

 ほか出演は、嘉数道彦、新垣正弘、宮城能香ら。歌三線は又吉恭平、棚原健太。箏は町田倫士。笛は大城建大郎。

 (藤村謙吾)

ウサ小の死で自らも狂う真三郎(右・金城真次)は、真加戸(中央・知念亜希)と知念里之子(上原崇弘)を手にかける
真三郎の科挙合格を祝う友人ら