政権介入避け自由尊重を<県内識者の見方㊦>


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大城 肇氏

 政府が日本学術会議の新会員候補のうち6人について任命を拒否したことについては、理由が分からないのでコメントできかねる。ただ、1949年1月に出された「日本学術会議の発足にあたって科学者としての決意表明」にあるように「これまで科学者がとってきた態度について強く反省し」「思想と良心の自由、学問の自由及び言論の自由を確保する」という表明の意味は重い。

 ここでの「科学者がとってきた態度」とは、太平洋戦争で科学研究を国策に役立てるという認識の下に、第一線の研究者が軍事目的のために取り込まれたことを指している。

 「○○の自由」とは、研究者が勝手気ままに振る舞うことではなく、時の政権や権力者らの強制・拘束・介入を受けないという意味として理解している。任命人事に当たっては、学問、思想の自由を尊重して行われるべきであろう。

 日本学術会議は、沖縄とも関わりを持ってきた。例えば同会議が65年11月に出した「沖縄との学術交流について(勧告)」では、米統治下の沖縄で科学者が日本本土の科学者と同等の資格を有していないことや、本土との学術交流が阻害されてきたことを指摘し改善を要望した。勧告は大きな影響があり、今に続くベースになっている。

 私が琉球大の学長を務めていた2017年に大学として軍事的安全保障研究について議論する機会があった。発端は15年7月に防衛省防衛装備庁が「安全保障技術研究推進制度」をつくり、公募を開始したことだ。翌月、琉球新報から「安全保障技術研究推進制度に関するアンケート」への回答依頼があった。

 アンケートへの対応について学内で議論し、防衛装備庁への応募は本学として当面の間、差し控える内容の声明「軍事防衛研究に対する琉球大学のスタンス」を学長名で15年8月5日付で学内向けに公表した。

 「スタンス」を検討する際に確認したことは、琉球大学は「平和・共生の追求」を基本理念としていることや、本学の教育、研究、社会貢献などの活動は平和の構築に寄与することを大学憲章でうたっていることだった。全学的議論を経て、軍事目的の研究はしないことを打ち出す基本方針や規則も制定した。

 日本学術会議が出した1949年1月の「日本学術会議の発足にあたって科学者としての決意表明(声明)」、50年の「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明、67年の「軍事目的のための科学研究を行わない声明」と照らし合わせても、大きく逸脱していないことを確認できた。

 日本学術会議は、科学が文化国家の基礎であるという確信の下、科学を行政、産業および国民生活に反映、浸透させることを目的として設立された。政府に忖度(そんたく)するような組織にはなってほしくない。


 おおしろ・はじめ 77年広島大大学院修了。広島経済大助教授などを経て89年琉球大助教授、94年教授。2013年4月から19年3月まで琉球大学長。専門は島嶼経済学。