『ワールド・ウチナーンチュ 忘れ得ぬ人々』 県系移民の生きざま追う


社会
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『ワールド・ウチナーンチュ 忘れ得ぬ人々』前原信一著 ボーダーインク・1760円

 本書は多年にわたり沖縄県系移民の放送取材をしてきた著者が、その中からえりすぐって60篇のライフストーリーをまとめたものだ。そこにはどんな交通不便なところにも足を運ぶ放送ジャーナリズムの現場主義がある。そこで彼が見たものは「なんくるないさ」や「いちゃりばちょうでー」といったウチナーンチュ特有のメンタリティだった。その精神こそが沖縄移民をして、世界に通用する「世界のウチナーンチュ」たらしめたのだ。

 沖縄から海外への移民は、1900年のハワイ移民を嚆矢(こうし)とする。今や世代も4世、5世へと広がり、その人数は推定42万ともいわれる。しかしその移民が「世界のウチナーンチュ」として再定義され、評価されるようになったのは、1980年代になってからだ。

 当時、沖縄は日本復帰後10年がたったが、米軍基地はほとんど変わらず、復帰に対する失望が重苦しく覆い、沖縄のアイデンティティーが問われた。外では国際化の波が押し寄せ、沖縄は新たな出口を模索していた。

 そんな折、海外にいる沖縄系移民に目が注がれ、脚光を浴びる。火付け役は、沖縄の新聞・放送だった。先陣を切った琉球新報は1984年から2カ年にわたる長期連載で、世界各地の県系移民の生きざまを紹介。その翌年に沖縄テレビ(OTV)の前原が、「沖縄発われら地球人」という週1回の30分番組で映像化する。放映は茶の間の話題となり、10年の長きにわたる。その後も「世界ウチナーンチュ紀行」と名を改め、2004年まで放送を継続している。

 11年にOTVを退職した前原は、ラジオ沖縄に働きかけ「ワールド・ウチナーンチュ」の紀行番組を280回にわたり放送。文字通り「世界のウチナーンチュ」は、彼のライフワークとなる。それらは県民の「世界のウチナーンチュ」意識の形成に、多大な貢献をした。10月30日は「世界のウチナーンチュの日」。一読をお勧めする次第だ。

 (三木健・世界ウチナーンチュセンター設置支援委員会共同代表・ジャーナリスト)

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 まえはら・しんいち 1948年沖縄市生まれ。73年に沖縄テレビ放送入社。ニュースキャスターの傍ら取材やドキュメンタリー番組制作に関わる。2001年、「日本民間放送連盟賞活動部門優秀賞」受賞。常務取締役などを経て11年に沖縄テレビを退職。