〈58〉お母さんけんしょう炎 育児で負担、強い痛み


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 皆さんこんにちは。育児中のお母さんはいろいろと大変ですよね。妊娠中は赤ちゃんがおなかの中にいるため、お母さんは腰や下肢で赤ちゃんの体重を支えていますが、出産後は主に上肢を使って赤ちゃんのお世話をすることになります。泣いている赤ちゃんをあやすために抱っこして寝かせて、抱っこして寝かせて、という動作を繰り返すうちに、お母さんの体に徐々に負担が増えていきます。

 一番多いのは腰痛や肩こりですが、手関節(特に親指の付け根)に強い痛みが生じる場合があります。赤ちゃんを抱っこするときに手首を直角に曲げてお尻を支えると、手首に負担がかかるので、けんしょう炎を起こしている場合が多いです。外来でこのようなお母さんを診察した際、私は分かりやすく「お母さんけんしょう炎ですね」と説明しています。

 正式な病名は「de Quervain(ドゥ・ケルバン)けんしょう炎」で、1895年にこの病気を最初に報告したスイスの外科医Fritz de Quervainにちなんでこの病名が付けられました。

 手首を強く屈曲することにより、親指の背側を走る短母指伸筋腱(たんぼししんきんけん)と長母指外転(ちょうぼしがいてん)筋腱(きんけん)がけんしょう内で強く圧迫され炎症を起こし、強い痛みが生じます。親指を手のひらに握りこんだ状態で手首を動かすと親指の付け根に激痛が生じるのが特徴です。妊娠中や出産後はホルモンバランスの変化により手足のむくみが生じやすくなるため、けんしょう炎を起こしやすい状態にあると言えます。特に初産の場合、出産前とは全く異なる育児生活を強いられることになるため、家族に協力を仰いでお母さんの体にかかる負担を減らす必要があります。

 治療は手首への負担を減らすためにサポーターを装着するか、炎症を起こしているけんしょう内にステロイドなどの炎症を抑える薬物を注射します。しかし数回注射しても症状が改善されず痛みが長引く場合は、10分程度の局所麻酔手術でけんしょうを切開する方法も行われていますので、近くの整形外科にご相談ください。

(新井弘一、やえせ整形外科 整形外科)