【識者評論】国は「埋め立て不能」自認 法の運用に立ち返り工事中止を 徳田博人・琉球大教授(行政法)


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 沖縄防衛局による特別採捕許可申請に対して県は、埋め立て承認を受けた「設計ノ概要」の内容で工事を遂行し、完成させることはできないことを理由に、不許可処分をした。今回の処分は、特別採捕にとどまらず、国の主張する辺野古埋め立て工事の有効性・適法性に対する反論とも言える。

 法律の世界では「法は不能を要求せず」という考え方を前提にしている。刑法学では不能犯という概念があり、例えば行為者が「犯罪行為をする」と明確に意図した上で実行したが、その行為では意図した結果を生じさせることができない場合だ。例えば「砂糖で人間を殺せると信じて毒殺を試みた」場合、行為者は無罪となる。民法では、当初から実現不可能な内容の契約をしても無効だ。行政法の世界でも、実現不可能な行政処分は無効だとされる。

 県が防衛局の特別採捕許可申請を不許可にした理由に戻る。防衛局が承認を得た埋め立て内容(設計概要)は、軟弱地盤などの存在が明らかになったことなどから、全区域の実施設計も提出できず、当初の埋め立て承認の内容の変更承認申請をせざるを得ない状況になっている。防衛局が変更承認を県に申請したことは、当初の埋め立て内容での工事は不能であることを自認したことを示している。従って当初の埋め立て承認は無効で、無効な承認を前提とする防衛局の特別採捕許可申請は、不許可とせざるを得ないということだ。

 防衛局の主張や国土交通相の裁決、農林水産相の是正の指示および国地方係争処理委員会の決定は、十分な根拠も示さずに埋め立て承認の有効性を前提にして、辺野古の埋め立て工事を正当化しているが、県は、法律(行政法)の世界の常識を踏まえ、当初の埋め立て承認の内容は無効(実現不可能)で、その結果、サンゴ特別採捕許可申請を不許可とせざるを得なかった。防衛局は、法運用の基本に立ち返り、埋め立て工事そのものを取りやめるべきだ。