〈59〉肘内障 「肘関節の脱臼」は誤解


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 よく保育園などから、子どもたちが腕の引っ張り合いをして、ある園児が上肢を動かさなくなったと相談があります。来院した多くの園児らは、痛い方の上肢をだらっと下におろしたままで、園の先生は「肘が脱臼したのでしょうか?」と私に質問します。

 診察では左右の鎖骨から触診し、両肘関節、手関節に熱感や腫れ、痛みがないかを観察します。それから再度、園児や園の先生、または親御さんに受傷した状態を細かく聞きます。手や肘を打撲、またはひねったことで受傷した明らかな経緯がなければ、肘内障(ちゅうないしょう)を疑います。肘関節は上腕骨と前腕骨(前腕骨には尺骨、橈骨(とうこつ)の2本の骨があります)で肘関節を形成しています。脱臼とは、その関節を構成する骨同士の位置関係がずれてしまうことです。しかし、肘内障は脱臼ではありません。

 難しい話になりますが、肘内障の説明をします。肘関節を構成する骨の中に橈骨という骨があり、この骨に輪状靱帯(じんたい)というバンドの役目をした靭帯が巻き付いています。前腕を引っ張った際に橈骨からこの輪状靭帯がずれることで、肘を曲げると痛みを自覚し、上肢の挙上ができなくなります。これは脱臼ではなく靭帯に絡んだけがだと理解してください。ある報告では24時間放置しても自然回復が期待できるとありますが、親御さんや園の先生方は、一刻も早く治してほしいため、すぐに来院します。整形外科医は肘内障の整復方法を知っていますので、すぐに治してもらえるでしょう。整復後は診察室の外で遊んでもらいます。そしてけがをした肘が曲がるようになり、腕も上げられたら治療は終了です。

 子どもが倒れそうになったとき、とっさに手を引っ張って肘内障になることが多いです。私はよく「乳幼児の体を起こす時は前腕を引っ張らずに上腕を引っ張って」と注意しています。肘内障は6歳からは起こりにくいのですが、中には骨折も否定できないけがもあるため、気になることがあれば近所の整形外科を受診してみてください。

 (真志取浩貴、ましどり整形外科)