ハンセン病問題次代へ 愛楽園、自治会が開園80年誌 激動の30年一冊に


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沖縄愛楽園自治会が発行した開園80年誌「うむいちなじ」を手にする金城雅春自治会長=3日、名護市済井出の同園

 名護市済井出の国立療養所「沖縄愛楽園」自治会(金城雅春会長)は9日までに、開園80年誌「うむいちなじ 改正ハンセン病問題基本法までの30年」を発刊した。療養50年史(1989年)から2019年までの30年を記録した。「らい予防法」廃止や国賠訴訟、ハンセン病基本法策定、家族訴訟などの新聞記事や写真資料、元患者や家族の証言に入所者の生活、園の変遷まで、ハンセン病問題を巡る歴史と元患者らの「うむいちなじ(思いをつないで)」という願いを416ページにまとめた。

 愛楽園交流会館の学芸員に加え、訴訟や証言集編さんに関わった人、研究者など23人が執筆し、自治会が編集した。金城会長は「激動の30年間だった。記録を残さなければ、未来の人々は分からなくなる。(うむいちなじが)将来の人々に記憶として残っていけば」と願った。

 第1章「地域との共生を目指して」では、強制隔離を定め患者の人権を奪った「らい予防法」(1996年廃止)制定の背景から廃止、国の法的責任追及と謝罪などを求めた国賠訴訟提訴(98年)や勝訴(2001年)などを盛り込んだ。元患者の名誉回復を図るハンセン病問題基本法の制定(08年)や、その後も苦しみ続けた家族が起こした「家族訴訟」(16年)の一連の動き、差別と偏見にあらがい、闘い続けた元患者らの歴史を記録した。

ハンセン病元患者家族訴訟原告団に謝罪し、匿名の原告に向かい頭を下げる安倍首相(当時)=2019年7月、首相官邸

 第2章「記憶し記録する」では、自治会による証言集編さん、園内ボランティアガイド育成、交流会館の誕生(15年)など、ハンセン病問題の啓発に向けた自治会の取り組みを追った。ハンセン病患者への差別がなぜ生まれ、その原因がどこにあるのか、人権とは何かを問い掛けている。

 隔離政策によって園内で生きざるをえなかった元患者らの暮らしぶり、県の政策、米軍統治下における状況などについても、補遺として掲載している。自由を奪われた患者がその情念を込めて詠んだ詩歌も38ページにわたって掲載した。

 編集を主導した交流会館学芸員の鈴木陽子さんは「多くの人が記念誌を手に取り、一人一人が大事にされる社会に思いを巡らせてもらいたい」と語った。

 うむいちなじは交流会館で販売している(税別3千円)。問い合わせは同館(電話)0980(52)8453。

 (宮古支局・佐野真慈)