沖縄戦終結から75年 記憶の継承へ影落とすコロナ 新たな手法模索も <沖縄この1年・2020>


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 慶田城 七瀬
時報とともに、沖縄戦犠牲者に黙とうする沖縄全戦没者追悼式典の参加者=6月23日正午、糸満市摩文仁の平和祈念公園

 2020年は沖縄戦の終結から75年という大きな節目を迎えたが、新型コロナウイルスが大きな影を落とした。6月23日の「慰霊の日」に行われる沖縄全戦没者追悼式は規模を縮小し、市町村や遺族会などが主催する慰霊祭も中止や縮小に追い込まれ、平和学習なども軒並み中止となった。感染防止のため体験者から直接話を聞く機会も減り、記憶の継承に向けては模索の年となった。

 5月15日、玉城デニー知事は沖縄全戦没者追悼式の規模を縮小して開催し、会場は平和祈念公園の広場から国立沖縄戦没者墓苑に変更すると発表した。知事は例年より参加者が少なく、広い場所が必要ないことに加え「墓苑には遺骨が眠っており、戦没者により深く追悼の意を表すことができる」と説明した。

 国立戦没者墓苑への変更には、すぐに異論が噴出した。沖縄戦研究者らは住民の犠牲を天皇や国家のための「殉国死」として、追認することにつながりかねないと懸念した。これらを受け、玉城知事は県内の感染状況が落ち着いていることから、同29日に広場に戻すことを示した。

 コロナ禍での急場の策だったが、一時的に会場が国立戦没者墓苑で予定されたことは、沖縄戦への歴史認識が問われる事態になった。同時に、時間の経過と共に薄れそうになる、沖縄戦の記憶をつなぐ意味を理解する機会になった。

 新型コロナの影響で平和学習や修学旅行の多くも中止となった。その中で沖縄戦の記憶を今に伝える施設や平和ガイドも新たな取り組みを始めた。

 対馬丸記念館は来館できなくなった児童に見てもらおうと「語り部ビデオ」の収録に挑んだ。修学旅行の中止が相次いでいることを巡っては、県内のガイド団体などが協力して、平和学習をオンラインで配信する「沖縄ピースリンクプロジェクト」も始まった。

 戦争体験者が減る中、実際の現場を訪れる平和学習だけでなく、遠隔授業やVRによる疑似体験など最新技術を駆使した継承方法の模索は、時代の要請かもしれない。