<書評>『俳句の弦を鳴らす 俳句教育実践録』 俳句の伝道師 使命感克明に


社会
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『俳句の弦を鳴らす 俳句教育実践録』野ざらし延男編 沖縄学販・2750円

 本書は、名もなき若者たち(高校生)に俳句の醍醐味(だいごみ)を教える国語教師の40年に及ぶ足跡を詳細に記録したものである。野ざらしは過去に句集を4冊出版しているが、俳人としての地位・名誉を求めるよりも、むしろ俳句の伝道師であり続ける使命感を持って生きてきた。

 少数の精鋭のみに向き合うのではなく、全員に平等な指導を心がける点も伝道師にふさわしい。全生徒が十七音の世界最短詩形と真剣に対峙(たいじ)することで、物事の観察眼と言葉のデッサン力を鍛えあげる。その結果、俳句に限らず自由な詩心を持った人間へと育つ。これこそ氏にとっての理想に違いない。教えを受けた高校生が「何事も一点だけから見つめるのではなく、いろいろな角度から見つめることによっていろいろな姿があるということを俳句から学びました」「自分でも驚くほどの言葉で、自分のイメージを文字にすることができ、びっくりしています」と述懐している。俳句の伝道師に対する最上級の謝辞であろう。彼らがその境地を日常にどう取り込みつつ、大人になった現在を過ごしているのか知りたいと思う。

 26年前の『秀句鑑賞―「タイムス俳壇」10年』の登場で、俳句に疎い私も「野ざらし俳句学校」の一年生になれた気がしたものだ。氏の指導者としての力量・哲学は今回の著作でも随所に現れており、自由な詩心の育成のために、季語絶対主義の伝統に論理的に反論している箇所は特に迫力があり、納得できる。ただ、『秀句鑑賞』に比べると1冊の本としての切れ味が鈍く、全体が重だるくなってしまった印象を拭えない。きちょうめんな資料の保存魔・整理魔たる氏の性格が「俳句教育実践の集大成」を強く意識するあまり、記録し残したいものを詰め込みすぎた。句作の極意「省略と凝縮」に通ずる編集上の考慮点だと思うが、いかがだろうか。

 ひねった評価となるが、『俳句の弦を鳴らす』の刊行によって、むしろ『秀句鑑賞』のすごさがさらに認識できたと感じるのは、私だけではあるまい。

(天久斉・BOOKSじのん店長)


 のざらし・のぶお 1941年石川市(現・うるま市)山城出身。沖縄女子学園(少年院)「俳句教室」講師歴任。元高校教師。高校現場で俳句創作指導に傾注し、全国入賞者を輩出。発行する俳句同人誌「天荒」が全国俳誌協会の編集賞特別賞を受賞。