総合格闘技で、無敗のまま世界ランキングを駆け上がった選手がいる。修斗・フライ級(56・7キロ以下)の平良達郎(20)=小禄高―沖縄大3年、ザ・パラエストラ沖縄=だ。ランキング1位を撃破し、最高位の世界チャンピオンへの挑戦権を手中に収めた新星はさらに鋭さを磨き、頂点へと突き進む。
■下馬評覆す
プロデビューは大学1年の2018年。快進撃の6連勝を果たし、その間には新人賞も獲得した。ランキング3位となり、11月23日に東京の後楽園ホールで開かれた公式戦で世界1位のベテラン清水清隆との一戦を迎えた。
5分3ラウンド制。互いに様子見の1ラウンドを終え、セコンドに付くジムの松根良太会長から「組技を混ぜていけ」と指示が飛ぶ。2ラウンドはタックルを仕掛け、倒れまいとする相手の一瞬の隙を突き、背後に回りバックポジションを奪った。グラウンドになり、脇腹を攻めて動きをけん制しながら絞め技を狙い続けた。何度か首元に腕を引っ掛けて脅かす。技は決めきれなかったが、確実に加点。怖さはなく動きもよく見えたという。最終ラウンドは相手の焦りを誘って打撃でも優位に運んだ。
清水は18戦10勝の戦歴を持つ日本格闘技界トップの実力者。下馬評は清水だった。それを覆し、3―0の判定勝ち。松根会長は「平良は反応がいい。日々の反復練習で培った敏しょう性を十分生かし、勝てると思っていた」と信頼していた。平良も期待に応える闘いで2ラウンド目の試合展開から「最終ラウンドは余裕を持てた」と潜在力を見せつけた。
■世界の選手へ
格闘技との出合いは高校1年。「他のことに挑戦したい」と小学3年から続けた野球を離れ、バスケットボールやダンスなどさまざまな部活を試してみた。しかし、どれも続かない。5歳上の兄が通っていた格闘技ジムに引き寄せられた。
全くの素人のジム通いが始まった。パンチやキックのほか、バランスの取り方など、思った以上に難しかったというが、のめり込むのは寝技にも取り組み始めてから。
部活の一環と考え、当初は対戦を想定していなかったが、柔術の試合に参加すると、闘うことに魅力を感じ始める。努力次第で勝利につながる。武器は自らの体一つ。鍛錬次第で沖縄代表として九州や全国の舞台で闘うことのできる点も「他の競技ではなかなか経験できない」と感じ、大きな喜びになった。
プロデビュー前も勝ちっ放し。その後も連勝街道を進み、飛躍を続ける。身長170センチ。自身の特長について「少しリーチが長いかな」と控え目だが、松根会長は「才能と言うよりしっかり練習してきたことが大きい。いいところは飲み込みの早さ」と評する。さらに「得意分野は打撃、投げ、寝技のどこかに偏りがちだが、平良は満遍なくこなせるオールラウンダー。それが対応力の良さにつながっている」と手放しで褒め「世界チャンピオンとはまだ差があるだろうが、伸びしろはある。おごることなく練習してほしい」と期待を高める。「沖縄、日本を代表する選手になる。応援してほしい」とも呼び掛けた。
平良は「ランキング1位に勝てたことは素直にうれしい。来年にはタイトルマッチを闘い、世界王者のベルトを奪取したい」と目標を明確に掲げる。試合をすることも考えていなかった少年が、自らの努力で才能を開花させた。世界王者を打ち倒し、沖縄初の修斗チャンピオンとなる夢の実現はもうすぐだ。
(謝花史哲)