コロナ禍の中で明けた2021年、長引く感染症の影響を受ける沖縄経済はどこへ向かうのか。専門家4氏に見通しを聞いた。
経済予想を語ったのは日本銀行那覇支店の一上響支店長、りゅうぎん総合研究所の久高豊専務、おきぎん経済研究所の東川平信雄社長、海邦総研の新崎勝彦社長の4氏。
20年と比べた沖縄経済の成長率について、一上氏、久高氏、新崎氏は「やや伸びる」と予想した。感染症の治療薬やワクチンの普及が進めば、未曽有の落ち込みとなった20年の反動もあり、回復に向かうとの見方だ。東川平氏は、先行き不透明感から「横ばい」と慎重な見方を示した。
分野別では、基幹の観光産業は政府の需要喚起策の効果などで、4氏とも「伸びる」「やや伸びる」と上向きの見通し。建設は民間需要の低迷が続くことなどから「横ばい」「やや減少」との見方を示した。
感染症の収束時期が見通せない中、21年の経済成長は予測が困難な面もある。コロナ時代を生き抜く成長戦略を描けるのかが各企業に問われている。
反動で高めの成長に★キーワード:コロナで不確実性高い
一上響氏 日本銀行那覇支店支店長
2021年の沖縄経済は、引き続き新型コロナウイルス次第となり、不確実性の高い状況が続く。このため、各企業には状況変化に柔軟に対応できる体制と心構えが求められる。こうした状況の下で、あえて予測を行うと、20年の経済の落ち込みが大きかったため、その反動により、21年は高めの成長率が期待できる。
また、東京などの感染拡大が早期に収束し、6月まで延長された「Go To トラベル」が押し上げに働く、日本を含め世界的にワクチン接種が進む、東京オリンピックが開催されるなどの材料がそろい、人々のマインドが改善するとの前提に立てば、かなり高い成長率も実現可能だ。ただし、コロナ前の水準に1年で戻るのは難しく、リスクは下方に厚い。
個別に見ると、観光は年末年始の「Go To トラベル」の一時停止、消費は外出自粛により、いったんは落ち込むものの、その後は回復していくと見込まれる。建設は、受注残の減少によって、徐々に落ち込んでいくものの、観光や消費の回復を受けて、落ち込み幅は小幅にとどまる。雇用環境も、観光などの回復に伴い、改善していく。
入域700万人回復期待 ★キーワード:コロナの収束時期
久高豊氏 りゅうぎん総合研究所専務
ワクチンの接種が海外で始まっており、新型コロナウイルスが今年の早い時期に収束となれば、経済の急速な回復が見込まれる。国内経済はコロナのダメージから徐々に回復していき、夏の東京五輪・パラリンピックの開催を契機に回復ペースが加速すると見込まれる。
県内経済は持ち直しの動き、観光は持ち直しの動きになると予想する。昨年の入域観光客数400万人割れの非常に厳しい状況から、700万人に近い水準への回復が期待される。
消費関連は引き続き弱含む見通し。コロナ禍で節約志向が強まっており、政府・日銀の経済金融政策でも、その払拭(ふっしょく)までには至らないとみられる。
建設は弱い動きとなる見通し。政府の経済対策の国土強靭(きょうじん)化関連事業が加わり、公共工事は堅調となるものの、昨年から続く民間工事の新規分の弱さが、工事量の減少となって、顕在化する見込みだ。
雇用関係は悪化が続く見通しだ。新型コロナウイルスの影響で、昨年後半から失業者が増加している流れが続くことが予想される。ウィズコロナで加速したとされるデジタル化が沖縄の企業の生産性向上に結びつくことを期待している。
先行き不透明感続く ★キーワード:需要喚起策と感染対策
東川平信雄氏 おきぎん経済研究所社長
開発が急がれる新型コロナウイルスの治療薬や、ワクチンの普及で経済活動の正常化が望まれるが、感染拡大の先行き不透明感が続き、経済活動は浮き沈みの状況が続くと予想する。
県内経済は、感染再拡大を巡る不透明感が家計や企業活動を萎縮させている状況にあるものの、需要喚起策「Go To」キャンペーンなどの消費下支え策や新たな生活様式の定着によって、宅配やオンラインショッピング等の利用増加も見られ、緩やかな持ち直しが見込まれる。消費動向の急拡大はなく、弱い動きが続くと予想され、収束後の繰り越し需要に期待したい。
建設関連は、企業の業績悪化や先行きの不透明感を背景に、弱含む。民間投資や雇用・所得環境の回復ペースは鈍いものとなり、慎重に推移すると予想する。
国内旅行需要は、需要喚起策や防疫措置を講じることで回復基調にあり、現状の対策や、取り組みの継続で県内入域観光客数も比較的緩やかなペースで持ち直していくと予想する。
県内主要産業である観光の本格的再開へ向け、感染防止対策と社会経済活動の両立を図り、コロナ前の力強い魅力的な沖縄観光を取り戻すことに期待したい。
宿泊需要改善に時間★キーワード:消費構想変化への対応
新崎勝彦氏 海邦総研社長
新型コロナウイルスの感染収束が見通せない予測困難な状況となっているが、ワクチン開発や政府の政策効果で、全体的には「緩やかな回復基調」に向かっていくとみられる。
大きく落ち込んだ観光は、インバウンドの回復は遠いものの「Go To トラベル」事業が下支えとなり国内および県内客による反騰が期待できる。ただし、宿泊施設も増加しており、需給ギャップの改善には時間を要しそうだ。
個人消費は、雇用や所得の落ち込みから消費マインドは抑制されており、追加の消費誘発策が望まれる。「EC(電子商取引)」市場の拡大が加速しており、県外へのカネの流出も懸念される。
建設関連は民間・公共とも減少傾向にある。分譲住宅は価格の下落局面下での買い控えも見られ販売不振に陥っており、企業の設備投資意欲も低下している。コロナの影響が時間差で建設業にも及びつつある。
観光産業がもたらす経済波及効果が、その大きさゆえに県経済にとって「もろ刃の剣」であることが浮き彫りになった。新沖縄振興計画策定の重要な年であり、社会課題の解決とイノベーション創出に期待したい。