<書評>『沖縄を世界空手の聖地に』 発祥の地の課題解決を指南


社会
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『沖縄を世界空手の聖地に』亀川爵著 ゆい出版・1650円

 世界の空手家が敬愛する空手発祥の地、沖縄がこんなにも重大な課題を抱えているのかということを本書から教えられる。

 まず初めに驚かされたのは、沖縄空手には流派の統一組織もなく、各流派を統括する全体の統一組織もないということだ。県民を含め世界の空手家は沖縄の空手は統一組織になっていると思っている。ところが、現在の「沖縄伝統空手道振興会」は空手4団体の統一組織であって、沖縄空手の真の統一組織ではないと指摘する。この組織では世界的な沖縄空手の普及は困難だと述べている。

 さらに驚かされたのは「空手に先手なし」が空手会館の展示では船越義珍が考え出したとなっており、これは大変な間違いだと指摘していることだ。船越は空手の普及に大きく貢献したが「空手に先手なし」は古くからの伝承だと資料を示し説明している。これには、県無形文化財「沖縄の空手・古武術」保存会の長老の方からも早急に訂正すべきだと提言されている。

 これについて、著者は次のように指摘している。「空手に先手なし」は沖縄空手の神髄を形成する言葉であり、沖縄空手の命とも言える「型」は「受け」から始まり、先に攻撃はしない。勝つことを目的とせず、高い倫理観を身に着けた人格形成を目的にしていると強調する。

 沖縄空手の終局の目標は平和な社会と共生できる社会づくりだ、と著者は述べている。この目標実現へ、学校教育の中にどう取り入れるかが問われているという。

 聖地実現への最大の改革は、翁長雄志前県知事時代に県の行政組織に「空手振興課」を新設したこと。空手に精通した職員をそろえ、2018年に第1回沖縄空手の国際大会を開催し、大きな成果を上げることができたと結んでいる。

 本書内で挙げる課題はこれまでの空手指導者の課題であり、行政機関である県の課題でもあると著者は指摘する。本書を通し、多くの課題解決が期待できる。空手界はもちろんのこと、多くの県民に読んでもらいたい書である。

(親泊一郎・元沖縄経営者協会会長)


 かめがわ・たかし 1940年台湾生まれ。体育教師として県内高校に勤務し、泊高校校長で定年退職。自立への人材育成戦略を考える懇話会事務局長として空手の振興にかかわり、「沖縄伝統空手道振興会」誕生に注力した。

 

亀川爵 著
A5判 176頁

¥1,500(税抜き)