<書評>『新編琉球三国志(上・下)』 実相に迫る大河小説


社会
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『新編琉球三国志(上・下)』 与並岳生著 上・下巻とも新星出版・1980円

 上下巻・総ページ868ページに及ぶ大作である。為朝来琉から尚巴志の三山統一までを描いた、壮大な歴史物語である。琉球史を彩る人物たちが縦横無尽に駆け回る物語でもある。

 旺盛な執筆活動を行い、琉球史の面白さやスケール感を私たち読者へ与えてくれる与並岳生。今回もまた、新たな与並ワールドを描いてみせてくれた。

 本書は、これまで伝説の域を超えることのなかった12世紀の時代から、日本史のみならず、世界史の中でも特筆すべき位置を構築しつつあった尚巴志の三山統一の時代までが描かれる。

 史書や言い伝えの中でしか出会うことのなかった源為朝から物語は始まる。そして尊敦(舜天)、英祖・察度へとつながり、そして三山の南山や北山へと舞台を移し、尚巴志の登場で大団円を迎える。

 現代に生きる私たちにとって、歴史の結果は分かっていても、その過程までは分からないことが多い。その分からないことの一つひとつを与並は、独自の見解をもってひもといてみせる。読み進めるうちに、紙上から各時代の主人公たちがユラリユラリと立ち上がってくるかのような錯覚にもとらわれてしまう。文字だけの平面の二次元世界から、立体的な三次元の世界が見えてくるのである。

 それほど、本書の登場人物たちは、全てが魅力に満ちあふれている。それぞれの人物に感情移入してしまうほど。

 その時点で、与並ワールドに絡みとられているのである。まぁ、それが与並ファンにとっての快感でもあるのだが……。

 謎に包まれた琉球の歴史を俯瞰(ふかん)し、なおかつ楽しみながら読むことのできる小説といっていいだろう。これまで与並が発表してきた作品群の中では『琉球王統記』の系譜に属するものだとは思うが、それとはまた異なる、まさしく実相に迫る大河小説といっても過言ではない。

 与並の紡ぐ物語世界は、これからどこへ向かっていくのだろう。次作も心躍らせながら期待している。

(宮城一春・編集者)


 よなみ・たけお 1940年宮古島生まれ。作家。新聞小説を中心に琉球歴史小説を発表。著書に「続・琉球王女百十踏揚 走れ思徳」「アカインコが行く」「新琉球王統史」など。

 

与並岳生著 四六判

¥3,600(税抜き)