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<書評>『沖縄憲法史考』 人々の「不断の努力」すくう

『沖縄憲法史考』小林武著 日本評論社・6050円

 本書は、まさに憲法学者が憲法に徹底的にこだわりながらつづった沖縄近現代史である。150年余の近現代を通じて支配者が沖縄への立憲的な憲法の適用を否定してきたことへの鋭い告発であると同時に、沖縄の人々による憲法獲得の努力と実践の歴史を探す旅の結晶でもある。

 明治憲法は外見的に近代国家の装いを凝らしたにもかかわらず、沖縄に対しては旧慣温存策と称する事実上の一国二制度で、国家への忠誠は強要しつつ、権利の付与は拒否してきた。その象徴が、徴兵制をいち早く導入した一方で、衆議院議員選挙法の適用を本島で22年、宮古、八重山では29年も遅らされたことだ。

 沖縄戦時には、県の行政機能が停止しても何の対処もしない政府、日本法適用の停止を命じたニミッツ布告に対しても何の抗議もしない政府、それは憲法政治における「捨石作戦」の現れであった。そのような姿勢は、戦後の帝国議会において戦後初の衆議院選挙での沖縄からの選出を停止し、その上で日本国憲法制定を議論した過程でも変わらなかった。そして、日本国憲法もアメリカ合衆国憲法も適用がなかった米軍占領の27年間。一貫して憲法から忘れられた島が沖縄であった。

 著者のまなざしは、琉球弧全体へも行き届いている。宮古島の人頭税廃止運動や、敗戦直後の八重山での「八重山共和国」構想、そして戦後の奄美諸島における復帰運動と、人権と自治に向けられた人々の「不断の努力」がすくい上げられている。著者は、憲法不在の近現代の沖縄で、憲法と沖縄の距離を見据えながら、「憲法」のありかを探し続けてきたのだ。

 今、日本国憲法の下にあるはずの復帰後の沖縄で、著者は、憲法が示す地方自治の充実、立憲主義の回復のための「抵抗権」の発展などに希望を見いだそうとする。沖縄で憲法を実現するためになすべき知的営みの問いかけに、私たちも応えていかなければならない。

(加藤裕・元日弁連副会長)


 こばやし・たけし 1941年京都市生まれ。2011年に南山大・愛知大を定年退職し沖縄に移住。現在、沖縄大客員教授、弁護士、法学博士。専門は憲法学・地方自治法学。主著に『地方自治の憲法学』『憲法判例論』『平和的生存権の弁証』など。



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