<書評>『あの頃も、そしてこれからも』 沖縄の正と負、克明に


社会
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『あの頃も、そしてこれからも』名護市市制50周年記念写真集専門部会編 名護市役所・2500円

 名護といえば、かつては中南部から半日かけて着くやんばるの都であり、小、中学生の修学旅行の宿泊地でもあった。「七曲り」の美しさ、険しさが鮮やかな記憶に残る。1970年に名護町、屋部村、羽地村、屋我地村、久志村の合併によって名護市が誕生した。あれから50年たったのである。

 70年代には名護市の都市計画として逆格差論が県内外に知れ渡った。列島改造論が華やかなりし頃、真の豊かさとは何かを地方から問い掛けるマニフェストであった。「人新世」がうんぬんされる現在、その理念はますます注目されている。

 「あけみお展」「フォトシンポジウム」の開催、名桜大学の開設などのように名護市には誇るべき独特の文化があり、一方では辺野古の埋め立てが国家によって強制的に行われているという、沖縄の正負の両面を反映する土地でもある。

 写真集は360ページ余の分厚さがある。20周年時に出版された写真集では戦前編と60年代までが大部分を占め、モノクロ写真がノスタルジックであった。今回は、戦前の写真もあるが、ほとんど戦後の移り行きが掲載されている。時代、場所、人の暮らし、まちの変化などが全7章に総数700点余の写真で繰り広げられている。2章は樹齢300年というひんぷんガジュマルにかなりのページを割いている。名護の象徴として以前はもっと身近に感じられたのが、時がたって現在の状態になる様子が分かるようになっている。

 6章「学びのまち」は子どもたちの生き生きとした表情を捉え、この本が未来の担い手のためにも制作されたことが分かる。7章には「平和を祈って」として反基地闘争が掲載されている。名護市には四つの基地を巡って戦後長い闘争の歴史があり、辺野古のそれは見開き2ページ全面をプラカードが埋め尽くしていることで提示している。文章でどんなに書いても、写真1枚にかなわないことがある。市町村史で、写真集は今日きわめて重要な事業であり、この写真集にはスタッフの写真への熱意と造詣の深さが大きく働いている。

 (翁長直樹・美術評論家)