〈62〉薬剤による認知機能障害 診察にお薬手帳持参を


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 私は、受診する患者さんに認知機能を低下させる薬剤が処方されていないかを確認するため、必ずお薬手帳を見せてもらっています。

 「薬物性認知機能低下」とは、ある薬剤の服用で(1)注意力低下が目立つ(2)認知機能障害に経時的変化がある(3)せん妄(入院中に高齢者が急におかしなことを言い出し、幻覚が出現、興奮して安静を保てなくなることで、薬剤性の場合が多い)に類似した症状を呈することがある(4)服用を中止すると認知機能障害が改善する―などの特徴がある場合のことをいいます。

 先で述べたように、通常は薬剤服用を止めると認知機能障害は改善します。ですが、複数の病気を抱えている高齢者は多種類の薬を服用しており、認知機能障害を来す可能性のある薬剤だと分かっていても、病気によっては服用を継続するしかない場合もあります。また認知症が進行して粗暴行為や興奮などが出現すると、患者さんの安全と介護家族のために認知機能障害の副作用がある抗精神病薬を処方せざるを得ないこともあります。

 夜間頻尿や切迫性尿失禁などに処方される抗コリン薬の服用が短期間の認知機能障害と関連することはこれまでも知られていましたが、2018年、リチャードソンらは抗コリン薬の服用が認知症発症に関係すると発表しました。

 アセチルコリンは神経伝達物質の一つで、腸管の動きや膀胱(ぼうこう)の収縮を活発にする副交感神経に働く一方、認知機能に重要な注意や集中の働きにも関係しています。そのため抗コリン薬によってアセチルコリンが神経細胞の作用部位に結合しないようブロックされると、認知機能障害が引き起こされるのです。

 実際に抗コリン薬を服用しているパーキンソン病患者の認知機能を経過観察すると、8年後には有意な認知機能低下が生じるとの報告があります。認知症の患者は脳内のアセチルコリンが少なくなっているので、過活動膀胱に多用される抗コリン薬は避けたいです。抗コリン薬ではありませんが眠剤として安易に使用されるベンゾジアゼピンの長期服用も認知症につながるのでご注意ください。

 (宮城航一、オリブ山病院、脳神経内科)