<書評>『うむいちなじ』 差別下の魂 響き伝わる


社会
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『うむいちなじ』沖縄愛楽園自治会編 沖縄愛楽園自治会、国立療養所沖縄愛楽園・3300円

 私が愛楽園を訪ねたころ、いくつかの写真にハッとさせられたことがある。若くて健康そのものの人たちが写っていた。法律により、そして社会の偏見、差別により愛楽園で数十年の隔離を強いられてき方々だ。私は、80周年になる後半の30年程度しか見てなかったのではないかと、ショックは大きかった。

 本書は、大学教員やボランティアガイドなど多彩な執筆者により、この30年間が丹念に描かれている。地域や県内外の市民ならびに関係者の関わりを物語っているのが、特色と言える。

 強制的に療養所に収容され、社会から偏見差別を強いられたハンセン病元患者は、自らの権利を取り戻すために間断なく闘ってきた。それは1996年の「らい予防法」廃止につながり、熊本地裁での「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟によって完全勝訴し、政府の控訴断念を勝ち取った。2016年には原告568人(うち244人が沖縄在住)が「ハンセン病家族訴訟」を熊本地裁に提起し、19年に勝訴の判決を得た。沖縄では、一度隔離された人が再び社会の中で生活している「退所者」が全国で最も多い。

 沖縄愛楽園自治会では国賠訴訟勝利後、平和の礎刻銘、断種堕胎の被害を後世に引き継ぐ「声なき子供たちの碑」建立、証言集編さん発行、ボランティアガイド育成などさまざまな活動を自治体や市民と共に展開し、15年には資料館の機能を持つ素朴ながらも思いのこもった愛楽園交流会館をオープンした。現在、多くの市民が訪れ、学びと交流の場になっている。

 本書に掲載された、二句の短歌を紹介したい。困難な差別の中でも希望を失わず生きてきた人々の魂の響きが伝わってくる。

 唇に点字を当てて読むという一つの手が脳裏を去らず(原田道雄)

 傷つきし胸部(バスト)いたわるわれの夜々にひびきて海の孤独なる声(新井節子)

 最後に、本書補遺2「米軍占領下の愛楽園の人々」で「USCR裁判記録」の貴重な資料が掲載されていることを付記したい。

 (川満昭広・なんよう文庫代表)


 沖縄愛楽園自治会 国立療養所「沖縄愛楽園」に入所する元ハンセン病患者で構成する自治組織。ハンセン病の啓発や入所者の社会的地位の確立、園内の医療・看護の充実に取り組み続けている。