<書評>『虚構の新冷戦』 二者択一のわなにはまらない


社会
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『虚構の新冷戦』 東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター編 芙蓉書房出版・2750円

 本書は、昨年イージス・アショアの配備中止とともに政府・自民党内で急浮上した「敵基地攻撃論」の「危険性」とともに、「新冷戦」と言われるまで高まっている米中対立の「虚構性」を論じた論文集である。言うまでもなく、両者は密接な関係にある。米中対立が高まる中で、いわゆる「第一列島線」の日本、そして沖縄はその最前線となりつつある。日本の「敵基地攻撃能力」の保有は、中国に対抗するための日米の軍事的一体化としての意味を持つ。本書は、米軍によって戦争の危機が高まり、そこに日本が巻き込まれる危険性を強調するとともに、戦争の危機を回避するための対話の重要性と日本外交の転換の必要性を説く。

 本書は米国防総省や自衛隊といった豊富な最新のデータが活用されており、どのような意見を持つ読者でも学ぶことは多いだろう。

 特に、米軍の新戦略を論じた須川清司論文、南西諸島への自衛隊と米軍のミサイル配備を論じた小西誠論文は、米軍の戦略の中で日本や沖縄がどのように位置づけられているかを知る上で有益である。沖縄基地や横田基地での米軍の訓練増大をそれぞれ検証した大久保康裕論文、高橋美枝子論文も安全保障の「現場」からの報告として貴重である。五味洋治論文は、北朝鮮のミサイル開発の現状と朝鮮半島の平和に向けた構想および日本の役割を論じている。

 米国の軍事戦略とそれに追随する日本の問題については詳細に論じられる一方で、中国に対する分析には「甘さ」も感じた。中国の香港政策やミサイルなど軍事力増強、南シナ海での大規模な埋め立てには明らかに問題があるし、それは中国の「特殊性」や米国のプロパガンダだけでは片づけられない。本書が述べるように、米中双方から日本が「踏み絵」を迫られる中、「米国か、中国か二者択一のわな」にはまらないようにし、戦争を回避するための主体的な外交を展開するためにも、われわれは現実を直視し、真摯(しんし)に考える必要があるだろう。

 (野添文彬・沖国大准教授)


 東アジア共同体研究所琉球・沖縄センター 鳩山由紀夫元首相が政界引退後、2013年3月に同研究所を設立。14年5月に設立された同センターは辺野古を含めた米軍基地問題や沖縄の未来構築などに関し、政策提言や県民運動支援を行っている。