<書評>『奄美植物民俗誌』 知恵の継承、求められる時代


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『奄美植物民俗誌』えらぶ郷土研究会編 南方新社・1980円

 本書のタイトルは『奄美植物民俗誌』とあるが、沖永良部島の植物民俗誌である。沖永良部島について少し紹介したい。島は、奄美大島と沖縄島の中間の位置にあって、低地には琉球石灰岩が広く分布し、島の北側は国頭と呼ばれている。島の南には古生層からなる大山にイタジイが生育する。自然も文化も沖縄と共通している点が多い。

 本書は、専門書というより、地域の方々が参加した手作りの本といえよう。巻頭には「島の先人たちが自然とどのように関わってきたのか、島に伝わる暮らしの知恵を聞き書きによって掘り起こし記録する」とある。今、まさにこのような取り組みが必要とされる時代だろう。

 本書にはソテツやイトバショウ、ホウライチク、アダン、ガジュマルなど暮らしの中で利用された100種の植物がカラーで紹介されている。多くが沖縄でもなじみのある植物で、方言も共通するところが多い。

 利用面も見逃せない。ソテツについては多くのページを割いている。1950年代まで島民の命を支えてきたのだ。ソテツの歴史、食料、農業、生活、玩具、鑑賞、販売、薬用、ことわざなど、項目に分けて説明されている。ソテツの実はヤナブ・ヤラブといって、イモが不作のときはそれを粥(かゆ)にして食べた。幹は、皮を削り、中の芯でキャーラ(沖縄島奥ではケーラ)という乾燥食を作った。これらの毒抜きをはじめ、具体的な事例が紹介されている。生活では、葉を燃料やほうきとして利用し、また実とシークリブ(シークヮーサー)とを物々交換したともいう。

 イトバショウの根元の切り口に穴を開け、そこに液をため、そのシブをサンシル(三線)に張る和紙に使ったようだ。潮の干満の少ないときには黒くて良いシブがとれるという。不思議だ。シブが薄い場合は、牛につくダニの血を混ぜると黒くなるとのこと。

 驚くような先人たちの知恵が目をひく。えらぶ郷土研究会の皆さんには今後とも島の掘り起こし記録を続けていただきたいと願う。

 (当山昌直・沖縄大学地域研究所特別研究員)


 えらぶ郷土研究会 沖永良部島の歴史・文化を次世代に残すことを目的に活動を続けている。同書の編集は先田光演、伊地知裕仁、新納忠人の3氏。