【寄稿】辺野古新基地巡る裁判、なぜ県の敗訴続く? 本田博利・元愛媛大教授


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本田博利 元愛媛大教授

 米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設に関し、国のサンゴ類移植申請に関する訴訟で3日、福岡高裁那覇支部は県の訴えを退けた。県は10日、最高裁に上告した。国が県に申請している埋め立ての設計変更を巡っても、裁判に発展することが予想される。元愛媛大学教授の本田博利氏(行政法)が琉球新報に寄稿した。

 名護市辺野古の埋め立てを巡る国と県との裁判で、県の敗訴が続いている。国が埋め立て承認が「法定受託事務」(知事の権限でありながら国が関与)であることを利用して(1)行政不服審査法に基づく審査請求・執行停止(2)地方自治法に基づく是正の指示―という二つの制度を悪用し、裁判所もこれを無批判に追認しているためだ。

 3日のサンゴ訴訟の福岡高裁那覇支部判決は、農林水産相が県に「許可をするよう」求めた是正の指示を適法と認めた。法定受託事務全般について、自治体が許可・不許可を判断する前に、所管の大臣が当否を決めることになり、地方自治の根幹を否定するものだ。

 国は地盤改良なしに工事を続ければ、米軍に新基地として提供することは到底できない代物であるから、設計変更申請に追い込まれた。内容は、地盤改良の面積や深さ、すな杭(ぐい)の本数などの具体的な記載が一切ないなど、問題だらけだ。

 国が変更申請した2020年4月21日から県が国に示した審査期間163~223日は既に経過した。国はサンゴ訴訟の高裁判決に味をしめ「相当の期間」が経過したので何も判断しない不作為は違法であるとして「是正の指示」を出し、国地方係争処理委員会を経て不作為の違法確認訴訟へとつなげる「勝ちパターン」に打って出ることが容易に想像できる。

 この手法は、15年10月に翁長雄志知事(当時)が承認取り消しに踏み切ったのに対抗して唐突に「代執行訴訟」を提訴したが、高裁の和解勧告によって取り下げざるを得ず「是正の指示」からの再スタートを強いられた屈辱の再現だ。前回、国は係争処理員会を経て違法確認訴訟を提起し、16年12月に最高裁で勝訴してようやく承認が復活し、工事を再開した。

 ただし今回は、申請内容の不備に加え、県内外から2万通近い意見書が集まり、県は国に242もの質問への回答を求めている。標準処理期間が経過しても審査を継続することに合理性があり、裁量権の恣意(しい)的な乱用には当たらない。

 そもそも違法確認訴訟の判決には「執行力」(強制力)はないので県に従う義務はなく、万が一負けても今回は放っておけばよい。その場合、国は大田昌秀知事時代の「職務執行命令訴訟」と同様の「代執行訴訟」に進むしかない。国の大臣が知事に代わって承認の変更の手続きを行うことになり、国と地方の根幹的な関係の在り方が問われる。県のみならず全国の地方の反発は必至だ。

 国との法廷闘争で、ここまで踏ん張ることが、県内外から寄せられた熱い意見書の思いに応える道だろう。

 是正指示が出る前に玉城デニー知事が設計変更を不承認とした場合は(1)の審査請求・執行停止のパターンの繰り返しとなる。その過程で、国が地盤改良工事抜きに埋め立てを強行すれば、いつでも何度でも承認の撤回ができる。
 (行政法)