<書評>『詩集 海に降る雨』 飛翔する言葉に勇気もらう


社会
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『詩集 海に降る雨』佐々木薫著 あすら舎・1540円

 本書は絶望に満ち非望にまみれている。この地点で己をむちうち幽(かす)かな光明を探してきりきりと引き絞った言葉を導き出している。言葉には血も汗も涙も混じっている。過去も現在も未来もより合わされている。それでもなお詩の言葉は「海に降る雨」のようなむなしい行為だ。

 「わたしの手が思い切り 放り投げたのは/石ではなく/わたし自身だったのだろうか/悔いても悔いても/とめどなく止めどなく/心の破れ目をつきくずして/あっけなく崩壊する今日の在り処」「非望の在り処をさぐりあぐねて/ひたすら歩き続けたその果てに/ようやく辿り着いた森 それは/私の中に鬱蒼と生い繁るジャングル」

 詩人は切り岸に立っている。この危うい現在を示す言葉とそれでもなお自らの在りかを探す詩人の言葉に私たちは大きな共感を覚えるのだ。

 作者にはすでに多くの詩集の発刊がある。山之口貘賞を受けた第1詩集『潮風の吹く街で』以来、常に切り岸に立つ言葉と格闘してきた。時には憎悪に満ち、時には悲しみに満ち、時には寂しさに貫かれた言葉だ。しかしこれらの言葉は、異郷の地からやって来た詩人が沖縄の悲しみに同化し希望を探る言葉でもあった。今回の詩集にも普遍の悲しみから昇華された詩群が私たちの目を見張らせる。作者は天性の詩人だと思う。

 かつてアウシュビッツの悲劇を生き延びた詩人パウル・ツェランは「すべてを失ったが言葉だけが残った」「詩の言葉はいつの日にかどこかの岸辺に流れ着くという信念の下に投げ込まれる投壜通信のようなものだ」と述べた。本詩集はこの言葉をほうふつさせる。

 「マッチを擦れ/ここは暗すぎて何も見えない/あなたはここに居るのだろうか(中略)/さあマッチを擦れ/手探りで探し出した たった一本のマッチ小さな焔が ふっと消えてしまわないうちに(以下略)」

 共感する詩編は数多くある。絶望から飛翔する言葉は私たちを鼓舞し勇気づける言葉にもなっている。

 (大城貞俊・作家)


 ささき・かおる 東京生まれ。詩人。1964年に沖縄へ移住。詩集に「潮風の吹く街で」「那覇・浮き島」など。季刊詩誌「あすら」同人。88年第11回山之口貘賞受賞。2012年第47回沖縄タイムス芸術選賞大賞(文学)。

 

佐々木薫著
A5判 94頁

¥1,400(税抜き)