【島人の目】世界最古のカフェの行く末


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 世界最古の喫茶店と言われるベニスの「カフェ・フローリアン」が廃業の瀬戸際に立たされている。コロナパンデミックが原因である。

 「カフェ・フローリアン」は1720年に開業した。昨年がちょうど創業300年の節目だったが、ベニスは都市封鎖下で観光客はほぼゼロ。店も閉鎖中のため記念行事は全て取りやめになった。

 ベニスでも最も華やかなサンマルコ広場にある「カフェ・フローリアン」は、歴史と文化と物語に彩られた美しい店。荘重な雰囲気に満ち、単なる飲食店を越えて、古都ベニスにおける欠かせない観光資源になっている。

 店内には大理石のテーブルが並び、金箔(きんぱく)に彩られた壁には、絵画や年代ものの装飾品などが所狭しとかけられている。その中を完璧な正装のウエーターたちが忙しく行き交う。サンマルコ広場側にもテラス席があり、昼夜を問わずバンドの生演奏を楽しむことができる。

 このカフェを訪れた世界の有名人は枚挙にいとまがない。店が開業して5年後に当のベニスで生まれたあの「カサノバ」に始まり、バイロン、ディケンズ、ヘミングウエイ、チャップリン、ワグナー、そしてアンディ・ウォーホルなど。ベニスを訪れる世界中のセレブが、必ずと言っていいほど訪れる店なのである。

 店は常時70人ほどのスタッフを雇い、夏の最盛期にはさらに多くのスタッフが働く。カフェの売り上げは2019年には1千万ドル以上あった。だがコロナが蔓延(まんえん)した2020年には、そのほとんどが失われた。ワクチンが行き渡るなど、劇的な展開がない限り、ことしも見通しは暗い。コロナ禍が終息すればベニスの街の観光事業は必ずよみがえる。その時に「カフェ・フローリアン」が存続しているのかどうかおぼつかない、というのはとても寂しいことである。

(仲宗根雅則、イタリア在、TVディレクター)