<書評>『詩集 一本の樹木のように』 豊かに生きる力培う


社会
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<書評>『詩集 一本の樹木のように』佐藤モニカ著 新星出版・1760円

 著者は、日系ブラジル移民四代目の子孫である。現在は名護市で子育てをしながら、意欲的に持続的に創作活動を続けている。これまでに「三好達治賞」を受賞したほか、短歌や小説などのジャンルであまたの受賞の実績を積んだ詩人・歌人・小説家だ。珠玉の詩集である本書を評する機会に恵まれたことをうれしく思う。

 本書の装画は、野原文枝の作品だ。その装画と対面した時、「一本の樹木」は、その昔、移民船で日本国を後にした曽祖父母や二世の祖父母が活躍した赤土の大地に生育するブラジルのコーヒーの木と、そのコーヒー栽培によって、著者の一族が豊かに繁栄することを象徴するものだと理解した。樹木の枝先に咲く花々や枝に生息する種々の鳥たちは、亜熱帯の気候風土の自然界の沖縄を標徴したモチーフでもあるだろう。

 本書は1・2・あとがきで構成されていて、1には13作品、2には12作品が収められている。1の作品の舞台は沖縄で、2はブラジルだ。作品は口語体で、表記はひらがな・カタカナ・漢字でその文字に託した作者の思想信条や社会事象等の表現内容が平易に読者へ伝わってくる。作品によっては幼児語が読み手に語りかける。詩のスタイルは、散文詩もあり、読者にとって変化のある読み味わいができる。さらには、修辞学の直喩法や暗喩法が用いられていて味わい深い。作品の中には、読み手の詩への想像参加を意図した、広い行間も設定され詩心を増幅させてくれる。

 精読する中で日常生活での子育てや巡る四季感そして過去・現在・未来への人生観等の重厚な内容が盛られていることを強く感じた。それと共に著者が、日常生活等において豊かな感受性と洞察力に富み、表現力にも優れていることも認識した。

 子育てや創作活動等と多面的に人生を構築している姿勢に、人間の生き方の崇高な実例を読み取ることができる。本書は、読者の心情や想像力・思考力を育み、美しく豊かに生きる力を培う内容の詩集である。多くの人々にお薦めしたい。

 (吉川安一・名桜大名誉教授)


 さとう・もにか 1974年千葉県出身。名護市在住。小説「カーディガン」で九州芸術祭文学賞最優秀賞、詩集「サントス港」で山之口貘賞、歌集「夏の領域」で日本歌人クラブ新人賞と現代歌人協会賞を受賞した。

 

佐藤モニカ著
B5変形判 74頁

¥1,760(税抜き)